2020.08.21
  • インタビュー
五十嵐夢羽(RYUTist)|コントじゃないですよ、トークです(笑)
RYUTistメンバー個別インタビュー。第2弾は五十嵐夢羽をお迎えした。   愛嬌の塊のようなメンバーである。まさにメンバーからの「よしよしなでなでしなくなる」という人物評がその魅力を見事に言い当てているように、とにかく愛らしいメンバーである。   だが、実際にRYUTistのステージを観てみると、それだけではないスペックの高さを目の当たりにすることとなるだろう。   RYUTistのメンバーはいずれも高いスペックを誇る。それぞれに個性的な歌声を表現力豊かに響かせつつ、同時にそれらを美しく重ね合わせるヴォーカルワーク。硬軟織り混ぜた美しくかつダイナミックなダンスをピタリと合わせるパフォーマンスの精密さ。それらは、とにかく“練習の虫”である彼女たちの不断の努力の賜物であり、それこそがRYUTistの表現者としての魅力の原動力である。   そんなRYUTistのステージに大きく貢献するのが五十嵐夢羽だ。“愛嬌”をたっぷりと注ぎ込むのは当然ながら、安定感抜群の端正な歌唱、そして正確無比でありながら躍動に満ちたダンスで、RYUTistの高品質なパフォーマンスを支えている。   そんな中、特筆すべきなのが彼女の“バランス感覚”である。冷静かつ客観的な視点で全体を見渡しながら、グループをしかるべき方向へと正しく導く。それはもちろん歌やダンスにおいてもだが、そうした手腕が最も顕著に表れるのが、ライブでのMCである。メンバーからも「MCで困ったらむうたん(五十嵐夢羽)の方を見る」と絶大なる信頼が寄せられているように、どんなにMCがとっ散らかっても、きちんと纏めて締めてくれるのだ。決して自分からガンガン前に出ていくタイプではないのだが、自分が必要な場面を見極めながら、あくまでバランスを保つように自身のスキルを過不足なく活かす。自身では「勉強はできない」と謙遜するが、頭の回転が速く、即座に状況を把握し、瞬時に的確な判断を下しているのは間違いない。   そして、そんな優れたバランス感覚や的確な判断力や豊かな感性によって生まれたのが、あの“伝説”の赤羽でのMCである。   五十嵐夢羽の魅力といえば、まずはその愛らしさに目がいくのだが、ライブ体験を重ねていくうちに、職人のごとく緻密に技巧を凝らすヴォーカルパフォーマンスや、時として傑作コントのごとく“見応え”のあるMCにも、その魅力を見出すことができるのだ。   そんな五十嵐夢羽にお話しを伺った。幼い頃のことや、自分の性格分析、そして、ステージでの数多の“見せ場”について、さらには、あの“赤羽MC”の再現も。ご一読ください。               頑固ってよく言われます       ーー夢羽さんとこうしてじっくりお話しするのも…   五十嵐夢羽(以下:五十嵐):もう緊張する~!   ーー緊張しますか? 僕なんかに緊張しないでくださいよ。   五十嵐:インタビュー自体緊張するんです。みんながいても緊張するんですけど、一人だとさらに緊張します。   ーーみんながいても緊張しますか。この後めちゃめちゃ話題にしようと思ってるんですが、夢羽さんは“しゃべりの達人”ですよね。   五十嵐:いやいや、そんなことないです。今日、私そんな感じで話さなきゃいけないんですか? めっちゃ怖い。   ーーそうです(笑)。   五十嵐:怖い~。   ーーお訊きしたことを素直に答えていただければ大丈夫ですので。   五十嵐:頑張ります。   ーーこういうところから始めたいんですが、約2年前に初めて取材させていただいた時に“他己紹介”といいますか、他のメンバーに「夢羽さんはどんな人ですか?」とお訊きしたところ、「こだわりが強い」「自分でこうだと決めたら決してそれを曲げない」という答えが出ました。頑固なんですか?   五十嵐:頑固ってよく言われます。周りから。自分ではそんなことないと思うんですが、人から見たら結構こだわり強めなイメージがあるみたいです。   ーーもう「やる」と決めたら簡単にはやめない感じですか?   五十嵐:そうですね。でもみんなそうじゃないですか?   ーーいや、すぐにやめちゃう人も結構いると思いますよ。   五十嵐:そう考えると、メンバーも私も同じタイプなんじゃないかなと思いますね。   ーー子供の頃からそうだったんですか? 例えば、習い事だったり部活だったり。   五十嵐:今までやめたこともいっぱいあるんですけど、でも、その時は自分の意志でやめた感じではなかったですね。何かしらの理由があってやめなきゃいけなかったので、自分から途中でやめるっていうことはなかったです。   ーーでは、日常生活などで何かこだわってることとかありますか? 絶対ここはこうするとか、こうしないとか。   五十嵐:前髪にはこだわりがあって、ちょっとラウンドなんですよ。真っすぐじゃなくて。ライブに出る時とか、写真撮る時とか、前髪はもう絶対この形って決めてますね。   ーー分けたりとか上げたりとかはせず?   五十嵐:そういうのはしないです。長さにもこだわりがあって、今のこの長さが絶妙ですね。   ーー今のが気に入ってるわけですね。   五十嵐:これよりもちょっと長くなっちゃうともう自分的には「ちょっとないな、この髪型」って思います。それをメンバーに言っても「いやいや、そんなわかんないって」とか「いつも揃ってるから」とか言われるんですけど…。   ーーいや、たしかにいつもキチンと揃ってるようなイメージですけど…。でも、他人にはわからない部分にもこだわりがある、と。   五十嵐:他人にはわからないところに、こだわりあるのかもしれないですね。   ーーあと、(佐藤)乃々子さんはずっと「可愛いです」「よしよしなでなでしたくなる」と言っていました。   五十嵐:なんか、のんの(佐藤乃々子)と一緒にいることが結構多くて…。年齢的には、のんのもともちぃ(宇野友恵)も妹的な感じで「よしよし」って思ってくれてるんだろうな、っていうのはわかるんですけど、最近みくちゃん(横山実郁)も私に結構よしよしするんですよ。「そこちょっと逆じゃない?」って思ってて。   ーー夢羽さんの方が年上ですもんね。   五十嵐:私の方が一つ年上なんですけど、最近みくちゃんも私のお姉ちゃん的な存在になってきて、「むうたん(五十嵐夢羽)はできなくて大丈夫だよ」とか「わかんないほうが可愛いよ」みたいなことをみくちゃんに言われるのはちょっと違うな、って思ってます(笑)。   ーーちょっとそこは不満があると。   五十嵐:でも、みくちゃんの方が大人っぽいんですけどね。   ーー実郁さん、大人っぽくなりましたもんね。   五十嵐:私、最年少じゃないんですけど、一応。結構でも最年少に見られることが多いですね。   ーーでも、たしかに可愛いんですが、ステージを見ると時に大人っぽいところも見えて、「だんだん大人になってきたな」って思うことが最近結構あるんですが…。   五十嵐:ありがとうございます。   ーーで、友さんは「しっかりしてる」「頭の回転が速い」とおっしゃってました。「MCでも誰かがちょっとトチったらすぐフォローに入ってくる」っておっしゃってたんですが、頭の回転速いですよね。   五十嵐:速くないですよ。   ーー「あまり勉強ができない」みたいなことをおっしゃってましたが、でも、ステージを観てたら、本当に頭の回転速いなと思います。   五十嵐:ほんとですか? うれしいですね。   ーーご自身ではどうですか? 勉強には自信がないんですか?   五十嵐:全然自信ないです。勉強はほんとにもう無縁ですね。   ーーただ、学校の成績と頭の回転の速さってまた違いますからね。社会に出た時に役立つ頭の良さってありますから。   五十嵐:そうなんですかね?   ーー今だとグループの中ではその回転の速さがものすごく役に立ってるじゃないですか。    五十嵐:そう言ってくれたりする人がいるので、それはうれしいんですけど、私からしたらみんなの方が回転速いなって思いますけどね。    
2020.08.16
  • インタビュー
荒武彩音(Star☆T)|ちょっとでも気になった方がいたらぜひ話しに来てくれるとうれしいです
Speak emoにてスタートした、愛知県豊田市のご当地アイドル、Star☆T(スタート)のメンバー全員インタビュー。第7回は荒武彩音(あらたけあやね)をお迎えした。   いわゆる“あやねワールド”で知られるユニークなメンバーである。   とはいえ、彼女とじっくり話すのは今回が初めて。それがどういう“ワールド”なのかはまだまだ掴めない。それどころか、インタビュー本文でも述べているように、本人も意識していないようであり、「ただ普通にしているだけ」とのことで…。   このたび、それを解明すべくインタビューを敢行。思い切って“あやねワールド”に足を踏み入れたのだが…。zoomの画面の向こうで話す彼女は、穏やかで落ち着いていて、むしろやや内省的な雰囲気が漂い、エキセントリックな様子は全く窺えない……のだが、次々と飛び出してくる子供時代からのエピソードでは、やはり“あやねワールド”が全開。「宝くじ」や「ちびっこギャング」「ナメクジ」「就活中のオーディション」といったキーワードで語られる逸話の数々には、やはりただ者ではないことが垣間見える。いや、決して奇を衒った様子はなく、極めて自然体で話されるそれらはジワジワと効いてきて、いつの間にか“異界”へと引きずり込むかのような不思議な味わいがあるのだ。   だが、特筆すべきは、そうしたキャラを意図的に作りながらそれを“売り”にしているのではなく、むしろパフォーマンスで大きく貢献しながら、そこに“隠し味”としてそうした“特異性”を薄らと忍ばせている点である。Star☆Tにはいないタイプのシャープで力強い歌声。その長い四肢を駆使しながらしなやかに表現するダンス。そして、モデルのようなスラリとしたスタイルに、驚くべき小顔と端正な顔立ち。そうした高いスペックでStar☆Tのハイクオリティなパフォーマンスに寄与しながら、そこに彼女ならではの独特の感性を無意識ながら絶妙に投影させるのだ。   スペックは高品質ながらその素顔は極めて自然体。だが、どこか掴み所がなく、なんとなく変。そして知らず知らずのうちにハマっている。そんな“マジック”こそが彼女の魅力であり、それこそが“あやねワールド”なのではないだろうか。   そんな荒武彩音にお話を伺った。さぁ、あなたもぜひ“あやねワールド”を彷徨っていただきたい。     もう全然、普通に話してるだけです   ーーいよいよですよ。“あやねワールド”に足を踏み入れるのは(笑)。   荒武彩音(以下:荒武):そんな(笑)。自分的にはそんな意識はないんですけど…。   ーーご自分では普通にしてるわけですよね?   荒武:もう全然、普通に話してるだけです。   ーーでも、それがそういう世界を作り上げているわけですよね。   荒武:みたいですね(笑)。他のメンバーが沢山言ってくれるので、そうなのかなぐらいな感じです。   ーーその辺りがどんなものなのか、を今回紐解こうと思っているんですが。   荒武:上手く答えられるように頑張ります(笑)。   ーーはい。まずはプロフィールに関してお訊きしたいんですが、彩音さんは熊本出身なんですね。   荒武:そうですね。高校卒業まで熊本にいました。   ーーじゃあ結構“九州人”ですか?   荒武:どうだろう。生まれたのは熊本ですけど、幼稚園は豊田だったので。   ーーあ、そうなんですね。   荒武:で、また幼稚園の途中で熊本に行って、高校卒業後に豊田に戻って来たって感じです(笑)。   ーーなるほど。豊田と熊本を2往復したわけですね(笑)。   荒武:そうですね。サンドイッチされてる感じで(笑)。   ーーでも、幼い頃から高校までは熊本だったわけですね?   荒武:そうですね。なので基本はもう熊本ですね。   ーー熊本弁って出ますか?   荒武:敬語を使わなければ出ます。   ーー差し支えなければ、熊本のどこだったんですか?   荒武:熊本市内です。   ーー熊本城って近いんですか?   荒武:熊本城は高校の教室から見えてました。   ーーいいですね。高校卒業後に豊田にいらしたのは、ご家族で?   荒武:そうです。そもそも母が熊本出身、父が豊田出身で、母が豊田に来て結婚して、みんなで熊本に行って、父が福岡に単身赴任して、その後また豊田に単身赴任して、豊田にはおばあちゃんの家があったので、そこにみんなで行ったって感じです。   ーー今はお祖母様も含めて、皆さんでいらっしゃっるわけですか?   荒武:はい。   ーーあとプロフィールには、Excel、Wordの資格を持っておられると。   荒武:そうですね。   ーーじゃあ事務はバッチリなわけですね。   荒武:そうでうね。パソコン作業は結構得意なので、今は普通の会社で仕事もしているんですが、ちょっと教えたりしてます(笑)。   ーーそうですか。差し支えない範囲で結構なんですけど、お仕事って月~金でフルタイムで勤務されているんですか?   荒武:フルタイムで、普通にオフィスで働いてます。   ーーStar☆Tとお仕事の両立は大変じゃないですか?   荒武:そうですね。最初は大変でした。専門学校に行ってた時にStar☆Tに入ったんですけど、ちょうど就活時期だったんですよね。入ったばっかりなので曲とか覚えなきゃいけなくて、それと両立するのが大変でした。   ーーそうなんですね。専門学校はどっいった系のものだったんですか?   荒武:ウェブデザインとか、ちょっとだけプログラミングとか、そういう系に行ってました。   ーーそういうのお好きだったんですね。   荒武:そうですね。勉強よりパソコンとかの方が得意だったので。   ーーなるほど。今のお仕事ではその技能は活かされているんですか?   荒武:普通の事務なのでそれほどは…。たまにちょっと関わるぐらいですかね。ウェブとか。自分が作るんじゃなくて「こんなデザインがいいんじゃないですか?」とか言ったりしています。   ーープログラミングの知識は役に立っていますか?   荒武:プログラミングは全然ですかね(笑)。全然理解できてなくて、テストもぎりぎりで卒業した感じなので。でも、デザインとかは結構専門学校で習ってたから、ちょっとは言えるか、っていうのはありますね。デザイン専攻でプログラミングもちょっと入ってるぐらいな感じだったんで。   ーーStar☆Tの活動でデザインされたりとかは?   荒武:全然してないです(笑)。そういう…なんだろう…してないですね。   ーー例えば、和久田リーダーはマネージメント関係のことをやったりとか、misolaさんや嶋崎さんは振り付けをしたりとか、作詞をされる方もいます。彩音さんもやっていますよね。朝空さんは衣装のデザインをやってみたいとおっしゃったり…。色々技能を活かせる機会もあるんじゃないですか?   荒武:う~ん、自分で「できるかなぁ」って思っていつも引いちゃうんですよね。自分から「やります」っていうのが苦手な感じなんです。   ーーそうですか。あまり自己主張をぐいぐいするタイプではないんですね?   荒武:そうなんですよね。「アイドルなのに駄目だな」って思ってるんですけど、なかなか直らない…(笑)。   ーーあと、プロフィールには「専門学校時に豊田市のポスターコンテストで受賞」とありますが。   荒武:そうですね。授業の課題で出たので提出したら、なんか賞取れました(笑)。   ーーそれはどんなポスターだったんですか?   荒武:あの時はなんだったっけなぁ…。豊田市民美術展だったかな。そういうのがありまして、豊田市に在住・在学の人が応募できるコンテストで、写真とかグラフィックデザインとか色々あったんですが、それで愛知県のお祭りのポスターを作って応募したら選ばれました。   ーー豊田市の人が参加する美術展にお祭りのポスターを出したと。   荒武:そうです。学校の授業で「愛知県のお祭り」をテーマにみんな作って募集しようっていう課題が出されて、その時に名古屋の大須商店街のお祭りのポスターを作って応募しました。   ーーそれは何人か選ばれた感じですか?   荒武:一応、2位か3位だったと思います。部門が色々あったんですが、グラフィックデザイン部門の2位か3位でした。   ーー結構すごいことですよね。   荒武:何点応募が来ていたのかはわからないので、そんなに出てないかもしれないです(笑)。でも、クラスが7人ぐらいいたので、少なくとも7人の中では2位か3位ですね(笑)。   ーーでも、他からもいっぱい出てたんじゃないですか?   荒武:かもしれないです。わかんないですけど(笑)。   ーーお仕事もされているとのことですが、職場では彩音さんがStar☆Tの活動については知られてるんですか?   荒武:知ってる人は知ってるのかなって感じですね。   ーーそんなに大々的に言ってないわけですか?   荒武:自分からは言ってないですね。   ーーじゃあ、「ちょっと今日ライブなんで帰ります」って感じで早退したりするわけではなく、上手くやりくりしているわけですね?   荒武:はい。普通に定時で上がってます。スーって抜けるのが普通な人って感じです(笑)。最初からほぼほぼ残業しなかったので(笑)。「こいつは帰る」みたいに認識されてると思います(笑)。   ーー土日、休日出勤とかないんですか?   荒武:土曜日だけ月に1回あるんですけど、そこはいつも調整してますね。「この日は遠征があるから絶対行きたい」っていう時は頑張って調整しています。   ーーその時は有給を使って?   荒武:そうですね。ライブをお休みさせていただくこともありますが、出来る限り行けるようには調整してます。   ーー専門学校卒業後は、ずっとそこに勤められているんですか?   荒武:そうですね。ちょうど3年目ですかね。   ーーお仕事されながらアイドルやられてる方って結構いらっしゃいますけど、バイトではなくて社員、しかも3年もっていうとちょっと珍しいかもしれないですね。   荒武:そうですね。私も最初は続けられるかなって思ってました。オーディションの時にちょうど就活中でしたし…。   ーーダブルで就活してたって感じですね(笑)。   荒武:そうですね(笑)。一応、受かったらやれるとこまでは絶対やるって言ってオーディションを受けてたんですけど、実際どうなるかわかんないじゃないですか、会社入ってみたら。そこはちょっと不安でしたけど、なんとか続けられてます。   ーー会社は楽しいですか?   荒武:会社はまあ、楽しいです。いい人たちばかりですし。   ーーこんなことをお訊きしていいのかわからないですが(笑)、Star☆Tを辞めてそちらに専念しようと思ったりしたことはないですか?   荒武:どうなんだろう…。専門職をグイグイやってる感じじゃないので、どっちも続けていければなって思ってます。いずれはきっと仕事だけになるんでしょうけど、行けるとこまではやってみようかなって思ってます。   ーーむしろ仕事を辞めてアイドルを続けて、結婚されてもアイドルで、っていう未来もあるかもしれないですよね。   荒武:どうだろう。体力がついていくかな?(笑)    
2020.07.31
  • インタビュー
佐藤乃々子(RYUTist)|私も誰かを守りたいと思って
新潟は古町を拠点とするRYUTistの最新アルバム『ファルセット』が各所で大きな評判を呼んでいる。   気鋭の作家陣を起用した優れた楽曲を歌うことで知られる彼女たちだが、この新作では、蓮沼執太、柴田聡子、Kan Sano、パソコン音楽クラブといったさらに先鋭的なサウンドクリエイターたちを招き入れ、これまでのキャリアの中でも最も音楽的な高みへと到する作品をものにした、と言えるだろう。   だがそれは、「ただ良い曲が並んだ」作品というわけではない。作家陣が彼女たちの歌声やパーソナリティーを“素材”として構築した目眩くサウンドスケープの妙。そして、彼女たち自身が作家陣の紡ぎ出した旋律や和音を“素材”として構築した至福の音楽世界の味わい深さ。作家と演者との歓喜に充ちた調和、あるいは祝福すべきせめぎ合い。いや、それ以上に特筆すべきは、“多様性”“普遍性”“ローカルとグローバル”といったキーワードを帯びる作品の「在り方」「立ち位置」あるいは「佇まい」だ。それこそが、この作品を傑作たらしめているのではないだろうか。   そんなことを、先日公開したRYUTistのグループ・インタビューで解き明かしたつもりだ。まぁ、まだまだ書き足りない、語り足りないが、それはまた追い追い。むしろ今回Speak emoで注目したいのは、本作の“コンセプト”だ。本作には「特定のコンセプトはなく」、むしろ「メンバー自身をテーマにした」作品であるという。それならば、メンバー自身にスポットを当てたインタビューを、ということで、幸いにもメンバー4人に個別取材をする機会をいただいた。   その第1回は、頼れるリーダー、佐藤乃々子。既にRYUTistとしては5回インタビューさせていただいているが、そのたびに彼女の発言の“面白さ”に気づく。だが、それゆえにその人物像が掴めなくなっているのが正直なところ。今回の取材でも、「仕事のことが気になって休日も休めない」と言いつつも「今日が楽しければいい、明日以降のことはわからない」と言い放ち、何事にも真面目過ぎるぐらいに取り組みつつも、家に帰れば「ダラダラ星人」へと豹変。そのハキハキとした受け答えや品のある佇まいから、いかにも“育ちの良いお嬢様”といった感があるが、意外にも“スーパー戦隊シリーズ”が大好きで、父の血を受け継いてパンチやキックも修得(?)しているようで…。そうした幾重にも重なる“矛盾”は彼女の魅力に他ならないが、今回の取材ではそれらの繋がりを見出すことができ、一本の線となったかのような……と思いきや、さらに混沌として一層掴めなくなったような…。   そんな驚くべき充ちた魅力的な佐藤乃々子のインタビュー。ぜひご一読いただきたい。         もう靴を脱いだら一気に力が抜けて、玄関で倒れて寝てます     ーーちょっと乃々子さんがまだ掴みきれないんですよ。   佐藤乃々子(以下:佐藤):前回もそう言ってましたよね。   ーーはい。これまでRYUTistの取材は5回やらせていただいているんですが、乃々子さん奥深いので(笑)。(横山)実郁さんなんかは割とすぐわかっちゃうんですけど(笑)。   佐藤:わかりやすいタイプ(笑)。   ーーこれまでの取材でわかったことは、ステージ上ではしっかりした“お姉さん感”を出してますが、メンバーといる時はかなり甘えるとのこと。   佐藤:あー、そんなこと言ってましたね。自分的にはあまり甘えてる意識はないんですけど。   ーーそうですか(笑)。乃々子さんの第一印象は、本当にきっちりした方で、とてもハキハキ喋って、すごく品行方正で、みたいな。   佐藤:出ましたね、品行方正。   ーーね。例えば外ではそうですけど家に帰ればダラっとしちゃう、っていうパターンは割とあるように思いますが、“外面”とメンバー内での“顔”も違うわけですね。   佐藤:そうですね。メンバーと一緒にいる時は家にいる感覚と同じですね。   ーーということは、メンバーとはものすごく心を許しているというか、もう何でも言ってるという感じですか? 例えば相談なんかしたりしますか?   佐藤:相談。そうですね、ライブのこととかですよね。   ーー個人的な悩みとかは?   佐藤:個人的な悩み。悩みがないからなぁ。   ーーえ?ないんですか???   佐藤:あったとしても、結構すぐ忘れちゃう感じかなぁ。あまり自分自身の悩みを人に言うことはないかもしれないです。悩みというか全体で共有した方がいい問題とかは、すぐメンバーに言ったりするんですけど、自分自身のことは人に言うことないですね。   ーーでも、悩みはあることはあるということですか?   佐藤:よく考えたらありました(笑)。例えば、みくちゃんは全体の雰囲気を明るくして、トークとかでは引っ張ってくれていて。ともちぃ(=宇野友恵)は、ダンスも歌もすごく上手で、パフォーマンス引っ張ってくれていて。むうたん(=五十嵐夢羽)も歌が上手くて愛嬌があるし、みんな良いところが沢山あるんですよ。でも私って考えたら「何かあるかな」って思うことはよくあります。何にもないんじゃないかって。   ーーというか、それも、まぁ言えばグループの悩みじゃないですか。ある意味“公的な悩み”っていうか。もっとなんと言いますか「夜眠れなくて困ってる」とか「夜中についお菓子食べちゃう」とか(笑)。   佐藤:夜中にお菓子食べちゃう(笑)。可愛い悩みですね。   ーー例えば、ご両親と喧嘩して最近口きいてないとか、そういうのはないんですか?   佐藤:ないです、それは。   ーーなるほどね。まだ掴めないなぁ(笑)。   佐藤:まだまだですか(笑)。   ーーで、お家では「ダラダラ星人」なんですよね?   佐藤:そうですね。ダラダラ星人してますね。   ーーそれがちょっと想像できないんですよ。どんな“ダラダラっぷり”なんですか?   佐藤:一度座ると、もう立ち上がらないみたいな(笑)。ずっとソファに寝そべってます(笑)。   ーー例えばそれは、お仕事から帰ってきて、メークも落とさないでそのままソファ、みたいな?   佐藤:落とさないんですよね。良くないんですけど…。ソファに行って取りあえず一回寝よっか、とか思って(笑)。   ーーソファで寝ちゃって(笑)。   佐藤:寝ちゃって、朝を迎えるとか(笑)。   ーーえぇええ! で、そのまま出掛ける(笑)。さすがにそれはないですよね?   佐藤:そのまま出掛けることはないんですけど、コンタクトレンズもカピカピで、朝、目が開けられなくて、みたいな(笑)。   ーーコンタクトつけっぱなしで!? それはちょっと気を付けていただかないと。   佐藤:はい。私って本当に家に着いた瞬間にスイッチが切れるんですよ。玄関入った瞬間に。だから玄関で寝ちゃってることもありますし…。   ーーえ? 玄関で寝ちゃうってどういう体勢でなんですか???   佐藤:もう靴を脱いだら一気に力が抜けて、玄関で倒れて寝てます。   ーー玄関って、フローリングというか板の間のイメージなんですが、寝られる場所があるんですか? それとも板の間に直で???   佐藤:板の間です。板の間。玄関マットはありますけど(笑)。   ーーそこで(笑)。それ、家族の人が見たら「死んでるんじゃないか」と思わないですか?(笑)   佐藤:でも誰にも起こされないんですよね。気付いてるのか気付いてないのか(笑)。   ーーということは、結構よくあることなんですね?   佐藤:ありますね、結構。本当に一気にスイッチが切れちゃうみたいで。   ーー面白いですねぇ。例えば、ステージ上だったり、テレビに出たりした時の乃々子さんのシャキッとしたモードと、グループ内でのちょっと甘えたりするモードがあって、家に帰るとまたさらにもう一段階緩まるというか壊れるというか(笑)。   佐藤:最上級。最上級に緩んでます(笑)。   ーー三段階で変身するわけですね?(笑)   佐藤:アハハ。そうですね(笑)。   ーーなので、家に帰ってからはもう酷いと(笑)。   佐藤:そうですね。本当に安心しきってます。   ーーソファでは朝を迎えることがあるとおっしゃいましたが、まさか玄関で朝を迎えることはないですよね???   佐藤:今のところないですね。夜中に気付きます(笑)。    
2020.07.25
  • インタビュー
浜川一愛|ライブごとに色々と試しながら歌っています
Speak emoにてスタートした、愛知県豊田市のご当地アイドル、Star☆T(スタート)のメンバー全員インタビュー。第6回は浜川一愛(はまかわちなり)をお迎えした。   浜川一愛は、大注目のメンバーである。   「一愛(ちなり)」という読みも語感も素敵な名前をはじめ、無類の愛すべきイジられキャラ、愛らしいルックス(個人的には、海外の学園ドラマに出てきそうなアジア系美少女をイメージする)、などその魅力はいくつもあるが、やはり特筆すべきはその“歌”である。   アイドル界屈指のパフォーマンス集団であるStar☆Tでは、やはりダンスに注目が集まりがちだが、歌唱に優れたメンバーも数多い。Star☆T随一の歌姫、牧野凪紗を筆頭に、そのスウィートな歌声で牧野と絶妙なコントラストを描く嶋﨑友莉亜(残念ながら9月27日での退団することとなったが…)、豊富な人生経験を巧みに歌声に投影させる和久田朱里、“王道アイドル”な歌声に仄かな哀愁を滲ませる朝空詩珠紅、伸びやかで切れ味鋭い歌声を誇る荒武彩音、14歳ながらダイナミックな歌声を堂々と鳴り響かせる近藤実希…。   そんな中でも、ひときわ異質で、誰よりも聴き手の心に染みるような歌声を発するのが浜川一愛である。まずはソロ曲「はつこい」を聴いていただきたい。まだ16歳の少女が歌う「はつこい」。純粋な恋心を甘酸っぱい声で拙く歌う様を想像するかもしれない。だが、ここでの浜川は、純朴さを維持しながらも、その声色に微細な変化を施すことで、移ろう情動のグラデーションを繊細に描き出し、まだ自身では抱いたことさえないであろう情感をも、色彩の巧みな調合によって鮮やかに再現しているのだ。   もちろん、熟練歌手に比べれば、まだまだ人生経験は少なく、技術的にもいっそうの研鑽を積んでいかなければならないだろう。だが、その天性の歌声と、それを巧みに操る才能を垣間見せる歌いっぷりを聴くにつけ、近い将来Star☆Tを歌で引っ張る存在になることを確信するばかりである。   インタビュー中で彼女は、「はつこい」を歌うにあたって意識した歌手として、Uruや手嶋葵といった名前を挙げている。筆者がさらに想像を膨らませるならば、彼女がシンガーとして成長していく先には、フィービー・ブリジャーズやワイズ・ブラッド、さらにはジュディ・コリンズやキャロル・キングといった名前さえ浮かんでくる。   もちろん、基本的にはダンス&ヴォーカル・グループであるStar☆Tにおいて、激しいダンスミュージックにも見事に対応していることは言うまでもないが、極めて多様な楽曲を誇るStar☆Tにおいては、彼女の繊細かつ情感溢れる歌声が大活躍する場面も少なくないだろう。   そんな浜川一愛にお話を伺った。今回は“イジり”は封印し、“歌”についてじっくりと語っていただいた。         アイドルはほぼほぼお父さんの影響です     ーー一愛(ちなり)さん、まだ16歳ですか。   浜川: 16歳です。今年の11月に17歳になりますね。   ーーお若いですね(笑)。   浜川: ありがとうございます(笑)。   ーーそれにしても「一愛」っていい名前ですね。   浜川: ありがとうございます。初対面の方にはいつも「何て読むの?」って訊かれます。   ーー「ちなり」とはなかなか読めないですよね。ご両親が付けたんですか?   浜川: お父さんが付けてくれました。   ーーどういう意味が込められているんでしょう?   浜川: はっきりと聞いたことはないんですけど、「一途な愛」みたいな感じだというのは、ほんのり聞いたことがあります(笑)。ほんのりと。あまり覚えてないんですけど。   ーーでも「一」に「愛」で「ちなり」と読ませるのは、なかなかの技ですよね。   浜川: そうなんですよね。   ーーご出身は岡崎市なんですか?   浜川: そうです。はい。   ーー岡崎市って豊田市のすぐ南側にある市ですよね?   浜川: そうです。はい。   ーー生まれはそこで、今は豊田市在住と。   浜川: そうなんです。   ーーいつ頃、豊田に来られたんですか?   浜川: 2~3歳ぐらいまで岡崎に住んでいて、それからすぐ豊田市に引っ越して来ました。   ーーじゃあもう豊田出身みたいなもんですよね。   浜川: ほぼほぼそうですね。   ーー幼い頃の記憶で一番古いものって何ですか?   浜川: え~、待って、わかんないです…。なんだろう…。   ーー例えば、嶋崎友莉亜さんなどはミニモニ。をテレビを観て踊ってたとか。   浜川: なるほど。私は小さい頃プリキュアが大好きで、私が1歳か2歳の頃から「プリキュア」のシリーズを観てたんですよ。朝はそれを観て、変身するオモチャとか持ってたりとか。あと「アイカツ!」。アニメやカードゲームがあったんですが、ゲームセンターでめちゃ必死に集めたりとか、小さい頃はそんな感じでした。   ーーそういうアニメなどを観ながら歌ったり踊ったりしてたんですか?   浜川: してました。テレビの前で主題歌とかエンディングテーマをめっちゃ歌ってましたね。テレビの前で。   ーーやはり歌うのはお好きでした?   浜川: そうですね。小さい頃から歌うことが好きで、小学校高学年ぐらいになってダンスにも興味を持ち始めて、っていう感じですね。   ーーアイドルにハマったりしました?   浜川: アイドルはほぼほぼお父さんの影響です。お父さん以前から結構アイドル好きなんです。   ーーいいですね(笑)。   浜川: そうなんですよ。いつもお父さんの影響でハマって、私のほうが沼にハマっちゃうみたいな感じなんですよ(笑)。   ーーそうですか(笑)。   浜川: そうなんです。一番最初はたしかAKB48さん。それからももいろクローバーZさんだったり、最終的に今は乃木坂46さんが好きです。結構色んなアイドルさんを好きになってますね(笑)。   ーーむしろお父様の方に興味があるんですが(笑)、お父様はどんなアイドルがお好きだったんですか? AKB48とかですか?   浜川: そうですね。最初にお父さんがAKB48さんのMV集とかライブのDVDを買って、車とかで流して、みたいな。そうすると必然的に目に入ったり耳に入ったりするじゃないですか。そして「この子可愛いな」とか「この歌好きだな」とか思って、私がどんどん好きになってくっていう…。   ーー最初にAKB48を好きになったのって、どの曲の頃ですか?   浜川: AKBさんはいつだろう? MV集だったので…。   ーーなんか箱モノで出てましたよね。   浜川: そうですね。『AKBがいっぱい』だったかな。そんなタイトルのMV集があって、たしかそれを初めて見て、そこでAKBさんに興味を持ち始めたっていう感じですね。   ーーどんな曲が好きでした?   浜川: 色々好きでしたけど、よく聴いていたのは、「夕陽を見ているか?」とか「チャンスの順番」とか割と初期の頃の曲を沢山リピートしてました。   ーー例えば、お父様と握手会に行ったりしたことはありましたか?   浜川: ありましたね。小さい頃は行けなかったんですけど、家族みんなで初めて行ったのは、ももいろクローバーZさんのライブでした。今では乃木坂46さんの握手会は、お父さんの用事がなければ一緒に行ったりしてますね。   ーー一愛さんは乃木坂46の梅澤美波さん推しですよね?   浜川: はい。梅澤美波ちゃん大好きです。   ーー“上級者”って感じですね(笑)。   浜川: アハハ。まぁ、めっちゃ王道ってわけではないですよね(笑)。   ーーちなみに、お父様の推しメンは?(笑)   浜川: お父さんは王道の白石麻衣ちゃんが一番好きで(笑)。   ーーめちゃめちゃ王道ですね(笑)。   浜川: そうなんですよ。   ーーでも、なんか親子で行かれるっていいですね。楽しそうですね。   浜川: はい。いいですね。   ーーグッズとか沢山買ってもらったりするんですか?   浜川: ほとんど「自分で買え!」みたいな感じなんですけど(笑)。ちょっとわがままを言っていくつか買ってもらってます(笑)。    
2020.07.22
  • インタビュー
ごいちー|「今若い女の子が歌う渋谷系ってめちゃくちゃいいな」って思ったんですよね
ごいちーの初ミニアルバム『Shining Wonderland』が素晴らしい。   まずは先行シングル「上の空モード」に”ひと耳惚れ"してしまった。シンガーソングライターのSAWAが作詞作曲したこの曲。イントロからスウェーディッシュ・ポップを想起させる“渋谷系サウンド”が鳴り響き、ごいちーのどこかアンニュイなヴォーカルが入ってくると、独特の空気感が生まれる。それは決して、かつての渋谷系を懐古的にトレースしたものではなく、当時の渋谷系が提示していた価値観をこの時代に生きる女の子の言葉と視点を通して瑞々しく翻案しているかのような印象だ。   当時の渋谷系には、イケイケの時代の享楽性が満ち満ちていたが、同時にそこには虚無感のようなものも漂っていた。一方ごいちーは、不安と虚無感に覆い尽くされたこの時代に、等身大の感性を投影しながらリアルとファンタジーが交錯する"wonderland"を描くことで、微かな希望を見出そうとしている印象だ。いずれも独自の価値観を提示し、瑞々しいインパクトを与えるものだが、閉塞感に苛まれるこの時代には、曖昧糢糊とした空気の中に見える光の方が、たとえ今はまだ小さくとも、その分より鮮やかな輝きを放つのかもしれない。   SAWAの作詞作曲編曲のナンバーが4曲。作詞つのだゆみこ、作編曲クマロボによるものが2曲。笹川真生の作詞作曲編曲によるものが1曲。“渋谷系モータウン”ともいうべき溌剌としたナンバーから、電波ソング成分も見え隠れするEDM、キラキラとした音色が散りばめられたエレクトロに、音響系の響きをたたえたバンドサウンド、そして哀愁が仄かに漂うシティポップまで。いずれも一つのイメージを類型的に再現するのではなく、明と暗、陰と陽、光と影、あるいは多様な色彩を絶妙に織り混ぜ、重層的で豊潤なイメージを描き出している。特筆すべきは、こうした多様な楽曲に応じて、ごいちーが彩り豊かな声によって歌い分けていることだ。   またその詞も、ごいちーが等身大の女の子を演じている”ものや、比喩や抽象的な表現の中に自身の本音を忍ばせたものもあり、様々な発色を見せるサウンドにさらなる彩りを加えている。   新潟を拠点とする5人組アイドルグループcana÷bissのDJとして活躍しつつ、“DJごいちー”としてDJ活動も行なうごいちー。昨年12月のシングル「上の空モード/あなたにあげる」でソロシンガーとしての活動も開始し、このたびミニアルバム『Shining Wonderland』をリリースした。   そんなごいちーにお話を伺った。さり気なくも奥深く、曖昧ながらも多様な色彩が見え隠れし、掴めそうで掴めないその人物像は、まさにこのミニアルバムに描き出されているような空気感をたたえている。そんな彼女の示唆に富む言葉をご堪能いただきたい。             まさか6年もやってソロデビューまでするなんて、当時はほんとに思ってなかったと思います     ーーprincipal!(プリンシパルエクスクラメーション、略称「プリエク」)の初期メンバーだったんですよね?   ごいちー:そうです。フフフ。   ーープリエクのメンバーとしてデビューしたのが2014年2月21日ですよね。   ごいちー:そんな前になるんですね。   ーーキャリア長いですね。   ごいちー:意外と長く活動してます。   ーーで、昨今の便利なネット時代、デビューライブの映像を発見してしまい…。   ごいちー:見ないでください。フフフフ。   ーーそれはアップされていていいものなのかかわからないんですが(笑)、王道アイドルという感じのグループでした。   ごいちー:そうですね。   ーーその時、どんな気持ちでステージに上がっていたんですか?   ごいちー:当時はAKB48さんが頂点にいて、ももクロさんも絶好調で、でんぱ組.incさんがブレイクした頃だったと思うんですが、私たちも、担当カラーがあって、ちょっと歌うみたいな感じの長めの自己紹介が一人ずつあったりして、完全にそうしたアイドルを意識してやっていました。曲も電波ソングっぽいのもありましたし、高音でてキラキラしてて早口でみたいな感じの、今のcana÷bissとは全く違うイメージでやってました。当時はみんな初めてだったので、何もわからず、ただやってるだけでしたね。何が正解かもわからなくて。   ーーごいちーさんの自己紹介も「お歌の時間ですよー」って。   ごいちー:ちょっと、それほんとに黒歴史なので。ハハハハハ。やだー。   ーーファンの方にはもう知られてることだと思うんですが、「ごいちー」という名前の由来は?   ごいちー:もう普通にバレてるのでいいんですが、本名が五井千賀子っていうんですよ。なので、学生時代からずっと「ごいちー」って呼ばれてて、そのままです。活動を始める際、みんなニックネームっぽい名前でやることになったので、そのままでいきました。   ーー「いちご」の業界用語ではないんですね。   ごいちー:そうなんですけど、初期の自己紹介の時は、覚えやすいかなと思って「いちごのごいちー」とか言ってましたね。いちごに対して特別な感情は全然ないんですけども(笑)。   ーーその当時は、現在のようにDJごいちーになって、今やソロで歌ってる、ということは夢にも描いてなかったですか?   ごいちー:そうですね。元々アイドルが好きで、アイドルを応援しに行った時に女の子のオタクみんなで写真を撮ったのがきっかけで今のプロデューサーに声を掛けていただいたので、自分でやるとは思ってなかったんですよ。声を掛けていただいたのがアイドルを初めてやる事務所で、私もどんな所なのか何もわからなくて「嫌だったらやめればいいかな」ぐらいの気持ちで始めたので、まさか6年もやってソロデビューまでするなんて、当時はほんとに思ってなかったと思います。   ーーちなみに、その応援しに行ってたアイドルって誰だったんですか?   ごいちー:私立恵比寿中学さんが新潟に野外のフリーライブで来ていて、それを観に行ってました。   ーーそこで撮った写真がきっかけで今の事務所musictrace inc.に入った、と。   ごいちー:はい。そうです。   ーー今回はそこからの歴史について詳しくはお伺いいたしませんが、ネットで調べたりすると、割と端折って書かれてる部分も見られます。ごいちーさんは一旦卒業されたんですよね?   ごいちー:そうですね。プリエクを2年ぐらいやって一度卒業してます。   ーーそれが2016年3月と書かれてますが、それは正しいですか?   ごいちー:はい。   ーーで、「プリエクが2017年3月にcana÷bissに改名し、ありさ、ありす、桐亜、DJごいちーの4人で始動」といった形で書かれているものが見られますが、正確を期すならば、ごいちーさんはプリエクが改名する約1年前に一旦卒業されているんですよね?   ごいちー:そうです。かなり端折ってあって…。私は一旦プリエクを抜けて、その間に新メンバーが入ったり抜けたり色々あって、その後まずは「canabiss!」に改名して、そのスタートメンバーとしてはプリエクの初期メンバーが2人残って、そこで「どうしよう」ってなって、musictrace inc.の別のグループにいた桐亜っていうメンバーが加わって、最初は3人で始めたんですよ。私はいなくて。で、「canabiss!」として初ライブを行った一週間後ぐらいに私がDJとして戻って来て、その時に現在の「cana÷biss」に表記が変わったんですよね。当初は3人だったんですが、ライブをMCなしで曲をどんどん繋いでいくっていうスタイルでやることになり、じゃあ「DJを募集しよう」っていうことになって、そこに私が復帰したという感じです。その時は一応musictrace inc.でソロとして所属しながら、東京で会社にも就職していたので…。「たまにソロでDJの活動ができたらいいな」ぐらいのゆるい感じで活動していたんですよ。なので「事務所にDJがいるので入れちゃおう」みたいな。   ーー最初は「イレギュラーメンバー」として「加入未満」という形で復帰されたんですよね?   ごいちー:そうですね。   ーー2016年3月に一旦卒業した際には、普通の会社に就職されたんですか?   ごいちー:musictrace inc.に名前は残したまま、私だけ東京に出てきて、普通に就職しました。    
2020.07.17
  • インタビュー
天野なつ|自分でやるのは大変なんですけど、それだけ結果がダイレクトに来るのが楽しいなって思います
九州を拠点に活動するLinQの2代目リーダーを努め、2018年に同グループを卒業すると、ほどなくソロ活動を始めた天野なつ。約2年のソロ活動を経て、6月17日遂にフルアルバム『Across The Great Divide』をリリースした。   博多のParks Recordsを主宰する松尾宗能をプロデューサーに、作曲には松尾をはじめ、長瀬五郎(インスタントシトロン)、関美彦、小川タカシ(カンバス)らが名を連ね、作詞は天野本人やスセンジーナらが手掛ける。バックには、かの沖山優司がベースで、“博多のラトルズ”とゴーグルズ・のセシル・ゴーグルがギターで、ELEKIBASSやカンバス、アナなどで活躍する植木晴彦、福岡を拠点とするバンド“COLTECO”の太田洋平がキーボードで、同じく福岡を拠点とするノントロッポのチャン・スカイウォーカーがドラムスで、元LinQの深瀬智聖と一ノ瀬みくによるCHiSEMiKUがコーラスで参加。さらにはミックス及びマスタリングをマイクロスターの佐藤清喜が手掛けている。福岡と東京を結ぶ“グッドミュージック・コネクション”がその本領を発揮し、極上のナイスサウンドを構築しているのだ。   そこに聴こえるのは、平たく言えば“ヴィンテージ・サウンド”と呼ばれるもの。モータウンやニュー・ソウル、ソフト・ロックにシティ・ポップ、そしてサイケデリックやラテン・ロック。さらに細部に耳を傾ければ、マーヴィン・ゲイ風グルーヴやビートルズ風ギターソロ、ザ・バーズ風12弦ギターサウンドやウエストコーストロック風アルペジオなど、音楽好きを唸らせる音の意匠が随所に聴こえてくるだろう。   こうしたサウンドが、「大人の趣味に付き合わされる純粋無垢な女の子」という構図によって作られる“ガールポップ”に引用されることは珍しくない。むしろ、歌謡曲の時代から、こうした試みは幾度と繰り返され、安易にコピペのできる昨今では粗製濫造の様相を呈していると言えるかもしれない。   だが、ここまで巧みに鮮やかに作り上げてくれれば文句はないだろう。このヴィンテージ・サウンドが凡百の“ガールポップ”と一線を画しているのは、そこに、R&Bに憧れた60年代のモッズや、モータウンなどのソウルを熱心に掘っていたノーザン・ソウルのDJたち、あるいは、誰も知らない名盤を我先に掘り当てようとしたレア・グルーヴや渋谷系の体現者たちが有していたような、いにしえのサウンドへの敬意と愛が宿っているからではないだろうか。   だが、本アルバムを現代ガールポップの傑作らたしめている真の原動力は、他ならぬ天野なつの歌声である。伸びやかで強度もあり、その一方で愛らしさや仄かな儚さや切なさもたたえた、実に心地好い歌声。“大人の期待”に存分に応えるのみならず、そうした“大人の思惑”を凌駕し、制作陣の予想を軽く越えているであろう眩いばかりの輝きをこのサウンドに与えているのだ。   天野なつがこうした歌声を獲得したのは、インタビュー本文でも述べられているとおり、様々な困難を乗り越えてきたからだ。入院。休業。卒業。上京。こうした“大きな山”は、彼女に表現の幅や深みをもたらしたのみならず、「Restart」や「うたかたの日々」などの歌詞を生み、さらに言えばこのアルバムを最良の形で結実させたのだ。彼女の発する言葉や声に説得力が宿っているのも、そうした“Great Divide”を越えてきたからに違いない。そんな彼女の歌声は、まだまだ難局に直面している世の中に一筋の希望の光をもたらすことだろう。   天野なつに、これまで乗り越えてきた“Great Divide”について、そしてアルバム『Across The Great Divide』について話を伺った。     LinQで芸能活動を終えるつもりだったんですよ   ――2018年の6月にLinQを卒業されて、結構すぐにソロ活動に移行されたんですよね?   天野なつ(以下:天野):そうですね。まぁ正式なデビューは9月末なので、3ヶ月ぐらい空いていますが…。   ――そこに至るまでには色々あったんですよね? ここでは深くは掘り下げませんが、2016年末に「解体・再開発プロジェクト」って、なんか駅前みたいなことが発表されて、グループが再編されたりしたんですよね?   天野: アハハ(笑)。それがあって、私も膝を怪我をして…。   ――しばらく入院されてたんですよね。   天野: はい、そうなんです。   ――大変でしたね。   天野: いろいろありましたね~、あの年は…。   ――そういうことがあって、でも、こうやって素晴らしいソロアルバムを出すまでになったわけじゃないですか。今率直にいかがですか?   天野: う~ん、でも、本当にソロ活動をしようと決めたのは、割と卒業する直前で、それまで私はLinQで芸能活動を終えるつもりだったんですよ。卒業後も、例えば女優がしたいとか、シンガーなりたいとか、そういうのは本当になくて。リーダーとしてLinQをやってきてきて、それで終わろうって思ってたんですけど、ひょんなことからバイト先で出会ったんですよね…。   ――え? 松尾宗能さんに?   天野: はい、そうなんです。その休業中に。   ――あぁ、入院などもあって、LinQ卒業までおよそ一年間休業されてたんですよね。   天野: はい。で、私も仕事がなかったので、バイトしなきゃって思って、六本松蔦屋書店でバイトを始めたんですよ。「何でそんなバレるとこでしたの?」ってみんなから言われたんですけど(笑)。   ――絶対気づかれる場所じゃないですか。   天野: 私、もともと映画が好きで、六本松蔦屋をうろうろするのが大好きだったんですよ。で、働いてみようかなって思って働き出して、そしたら松尾さんに出会って、声掛けられて。最初、ソロはちょっと自信ないなって思ってたんですよね。一人で喋るのがあんまり好きじゃなかったので。   ――めっちゃしっかり喋られてる印象がありますが…。   天野: 実は、ステージでのMCとかあまり好きじゃなくて。喋るのが楽しいなって思えるようになったのは、ソロになってからですね。それまでは、リーダーだったのもあるし、下手なこと言えないなと思って結構プレッシャーだったんですよ。ステージに立つことは好きだったんですけど。で、ソロできるかなってずっと思ってたんですが、IQプロジェクトっていう、うちの事務所のメンバーたちがLinQ卒業後も色んな活動をやっているのを見て、私もまだ芸能の仕事を辞めたくないなっていう気持ちが芽生えてきて、で、やってみようっていう…。どうなるか分かんないけどやってみようっていう気持ちで始めました。   ――松尾さんと出会った時って、松尾さんが声掛けてきたんですか? 「LinQの方ですか?」みたいな感じで…。   天野: 蔦屋のバイトで、最初オリエンテーションみたいなのがあったんですよ。一人ずつ意気込みみたいなのを言うやつで、そこに松尾さんもいたんですが、私が意気込みを言った時に気づいたらしくて。「あれ? 天野なつじゃない?」みたいに。   ――松尾さんもそこで働いてたんですか???   天野: そうです。松尾さんは“コンシェルジュ”をやってます。“音楽コンシェルジュ”。   ――その肩書は見たことがありますが、外部のアドバイザー的な人なのかなと思っていました…。   天野: レジとか一緒にしたこともありますよ。   ――そうなんですね。   天野: ブック担当とか、文房具担当とか、レンタル担当とかいろいろあるんですけど、私、松尾さんと一緒だったんです。   ――ガッツリ働かれてるんですね。   天野: 週5ぐらいでフルタイムで働いてます。   ――それって書いていいんですか?(笑)   天野: 全然。松尾さんは蔦屋にバリバリいるので。結構、松尾さんのファンというか、そういう人とかもよく来られるんです。   ――松尾さん、いろいろ暗躍してますね、色んなところで(笑)。僕は正式にご挨拶したことはないんですけど…。   天野: 確かラジオとかもやられてますし。   ――松尾さんとバイト先で出会ったのは……その時ってもう卒業を決めるかどうかって頃ですか?   天野: だいぶ固まってきたぐらいですかね。2017年の暮れぐらいです。   ――明けて1月に卒業を発表した、みたいな感じでしたっけ。   天野: そうですね。   ――その頃からもう準備は始めていたってお聞きしたんですが、LinQ卒業とソロ始動を決意をしてから楽曲を作ったりとかしたんですか?   天野: 1枚目のシングルに収録されていた3曲「Open My Eyes」「Secret703」「Restart」は、卒業前にレコーディングしました。