FEATURE

2023.05.24
Aphrodite

狂気という名の輝きが人を狂わせるのなら、今宵のAphroditeはまさに、真っ赤な狂気と化した月となっていた。 Aphrodite定期公演「新生Aphrodite単独定期公演~女神の目覚め~vol.12」ライブレポート。

 5月21日は「ゴシックの日」。折しもこの日、Aphroditeが新宿HEISTで定期公演「新生Aphrodite単独定期公演~女神の目覚め~vol.12」を開催していたこともあり、さっそく潜入。ゲストのラストクエスチョンのパフォーマンスを受け、Aphroditeのライブが幕を開けた。


  気持ちを騒がせる重厚かつ急速な音に乗せ、闇に包まれた舞台へ一人一人がゆったりと、舞台の上で麗美にお辞儀をしながら姿を現した。漆黒の闇に染まった空間へ、ほのかな5つの光を差すメンバーたち。

  場内を揺さぶるような轟音を合図に、Aphroditeの儀式は幕を開けた。冒頭を飾ったのが『EDEN』だ。唸る音を背に彼女たちは、目の前で"乞う"ような視線を向ける人たちを、興奮と恍惚が支配する楽園へと導くように歌い叫んでいた。とても雄々しい姿だ。クラップをするメンバーらへ向け、荒ぶる姿で想いをぶつけ返す観客たち。メンバーらが「Oi!Oi!」と煽るのを合図に、観客たちも拳を高く突き上げ、同じように声を荒らげ、拳をぶつけ返す。曲が進むごとに5人は雄々しい声を張り上げ、ここに集った人たちを、熱情した風が渦巻く興奮と高揚の楽園へと導きだす。フロアの最前線に居並び、観客たちを雄々しき姿で煽る様が壮観だ!!!!!

 「なぜ悲しいの なぜ傷つけるの」と、嘆く心模様を叫び声へと変えるように『Ēlysion』が響き渡る。「いくぞ!!」の声を合図に、メンバーらは、唸る野獣のような声で「Oi!Oi!」と叫んでいた。その姿に刺激を受け、フロア中の人たちも高く拳を突き上げる。漆黒の翼を身につけた女神たちの歌声の洗礼を受け続けていたら、それまで息苦しさを覚えていた心が解き放されるような感覚を覚えていた。彼女たちは歌っていた、「なぜ悲しいの なぜ傷つけるの」と。痛みを覚えズキズキと熟した心の傷へその歌声が染み込み、悲しみや苦しみ、目の前を覆った闇にさえ、傷を癒す光を与えていた。メンバーたちの「Oi!Oi!」と振り上げる拳と声に合わせ、誰もが気持ちを重ねあわせ、熱狂をむさぼり喰らっていた。

  「まだまだいくぞ!!」。身体を切り裂く鈍い音が、これまで以上に衝撃を持って襲いかかる。荒ぶり疾走する『lament』に乗せ、メンバーたちが呪詛を唱えるように歌えば、サビでは、感情を解き放つように雄々しく歌いあげていた。メンバー一人一人が心の叫びを上げるたびに、観客たちは叫び声を上げる女神たちの前へと足を運び、絶叫の洗礼を全身に浴びていた。彼女たちは「この世の光を集めて」と歌いながら、強欲にまみれたこの世界へ、新らしい甘美な楽園を作りあげようとしていた。絶叫したその声と、身体から発する火照った熱を武器に…。

 メンバーたちがさらに声を荒らげ、観客たちを熱く煽る。5人の掲げた拳と荒れ狂う感情とをシンクロするように、フロアのあちこちから絶叫と拳が高く突き上がる。雄々しき声を上げ、漆黒の翼を広げ羽ばたき続ける5人の女神たちを、畏敬の念を持って崇める観客たち。『GENESIS』を通してこの場に生まれた景色が強烈なインパクトを放っていた。5人の絶叫した声が一つに重なり、魂を揺さぶる黒いハーモニーを作りだす。今宵の儀式は、まだまだ中盤戦だ。

  鼓膜をつんざくようなファンファーレが鳴り響く。『Distopia』だ。「いくぞ!!」の声と「Oi!Oi!」の煽りを合図に、フロア中の人たちか拳を突き上げ、頭を振り乱し、女神たちに思いを捧げてゆく。意識を混濁させるノイズのような轟音の中から響く5つの美しい歌声が、触れた人たちの気持ちを恍惚へと導く。三半規管を狂わせるメタリックなノイズ音の中から聞こえる女神たちの生と熱を抱いた声が、魂を癒してゆく。轟音という用紙の上に書いた五線譜の一つ一つの線を、5人の歌声が一つ一つ綺麗に弾いていた。ノイズの中から響く美しい歌声ほど、楽園を覚えさせるものはない。

 美しき感情の破壊神になった5人が描き出すのは、荒廃した闇が覆う世界ばかりではない。『nocturne』で彼女たちは、胸に手を寄り添え、心の中から沸きだす想いを静謐な歌声に変えながら。時折、がなるような声も響かせ、一人一人が歌を繋ぎながら物語を紡いでいた。美しいメロディーをまとった歌が、瓦礫の中から花を咲かせるたようにも、なぜか思えていた。壊れて積み重なった瓦礫の街の中、5人の女神の歌声が、心踊らせる宴という歓喜の花を咲かせていくようだ…。


 短いMCを挟み、ライブも終盤へ。轟音の調べに乗せ、今宵は5人と一緒に踊ろうか。軽やかなステップを導きだすのは,『My Sweet Bach』の旋律だ。メンバー一人一人が軽やかに舞うように歌い踊る。狂気を吐き散らす様も胸を揺さぶるが、轟音の中で優美に舞い踊る女神たちの姿も、目に鮮やかで美しい。黒く艶やかな宴が目の前に広がる。感情を掻き乱しひれ伏すのも楽しいが、麗美な歌声や旋律で魂を揺らすのも心地よい興奮だ。悲しみを吹き飛ばすように胸に手をより添え、心に満ちた声を放つように張り上げる姿が、高貴で美しい。観客たちも身体を優しく揺らしながら、その音に恍惚な表情で酔いしれていた。

 最後にAphroditeが届けたのが、『月は無慈悲な夜の女王』。これまでの物語へ今宵の終止符を打つように。でも、Aphroditeらしい、無数の拳が突き上がる景色を作りあげていた。狂気という名の輝きが人を狂わせるのなら、今宵のAphroditeはまさに、真っ赤な狂気と化した月となり、この場にいる人たちの感情を荒ぶらせていた。いや、あるべき本能の、本当の姿に一人一人を戻していた。突き上がる無数の拳の宴は、今宵も心を狂気と狂喜へと導いてくれた。

 

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TEXT:長澤智典


★インフォメーション★

新生Aphrodite単独定期公演
~女神の目覚め~
毎週月曜日
新宿HEIST


セットリスト『EDEN』
『Ēlysion』
『lament』
『GENESIS』
『Distopia』
『nocturne』
『My Sweet Bach』
『月は無慈悲な夜の女王』

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