Speak emo

2019.01.09
加納エミリ

新しいアイドルの可能性を私が作りたいな、って

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女の子のアイドルって、めちゃくちゃアングラな音楽でもポップカルチャーに持っていける唯一のアイコンだと思うんですよね

――ここからが一番聞きたいところなんですが…えーっと、まずはこういう質問をさせていただきます。自分のやってる楽曲に対する自己評価ってどうですか?

加納:自己評価ですか? 客観的に見てってことですよね。面白いことやってるんじゃないかなと思います。やっぱり他の人がやってそうでやってないことを私はやってるんじゃないかなと思います。

――先ほど「隙のある感じが好き」「隙がある方が親近感を抱いてくれる」とおっしゃってました。ちょっとこういう聞き方をすると語弊があるかもしれないですけど…

加納:何でも聞いてください。

――「“ダサい事”をやっている」っていう意識はありますか?

加納:そうですね。だからダンスもご覧の通りちょっと変な。あれも狙ってますね。

――なるほどね。ということはつまり、80~90年代のニューウェイヴやエレポップといった音楽が自分に一番しっくりきて、いわば「カッコいい」と思われたわけですよね? それを客観的に分析すると、その「ダサさ」とか「隙」っていう部分がカッコいい、と。

加納:そうですね。

――つまりは、「ダサいもの」を自覚して取り入れているわけですよね?

加納:はい。自覚してます。

――なるほどなるほど。ところで、ヴェイパーウェイヴってご存じですか?

加納:ヴェイパーウェイヴ? アーティストさんですか?

――いえ、そういうムーブメントっていうか。2010年代初頭に80~90年代のものを“ダサいもの”として捉えながら、それを面白がってイジって再構築するというか…。ある意味、ダサいものの中にカッコ良さを見出すというか…。先程おっしゃったように、キメキメってかっこ悪いじゃないですか。

加納:そうですね。

――例えば、アートの世界では廃材を使ったアッサンブラージュとか消費社会で大量消費されるものを使ったりしたポップアートとかがありますが、そういったものと同じ感覚で、80~90年代の“ダサい音楽”を素材に、ものすごくテンポを下げたりとか、チョップトとかスクリュードといった加工を施して新たな価値観を作り出すというか…。テープが伸びちゃったVHSの映像を観ているような感覚で、グワーンって音を曲げたりしながら、音楽でそういったものを作るって、それを面白がる、みたいなムーブメントです。

加納:面白そうですね。

――それはネット上のコミュニティーの間で広がっていったんですよね。で、どれだけ意識していたかは分からないんですが、日本にもヴェイパーウェイヴと捉えられていたアイドルがいて。Especiaっていうんですけど…。もう解散しちゃったんですが、80~90年代のディスコ/ブギーなどを今の時代に再構築してやっていたアイドルで、例えば「No1 Sweeper」っていう曲のMVでは、本人たちより大きなブロッコリーが海からバーンって出てくるみたいな(笑)、もうめっちゃダサいんですよ。

加納:そういうの好きです。家帰ったら観てみます。

――で、サウンドは加納さんとは異質のものですが、空気感とか、“音の在り方”みたいなものとか、に相通じるものがあるんですよね。

加納:今の話を聞いたら近いかもしれませんね。

――Especiaって聴いてましたか?

加納:聴いたことはないんですけど…。

――ぜひ聴いてみてください。今、ペシストが加納さんに結構食いついていますから。

加納:ペシストっていうんですか?

――はい。男性ファンは「ペシスト」、女性ファンは「ペシスタ」って言います。

加納:へぇ面白い。女性と男性で名称が違うんですね。

――Especiaって名前がもともとスペイン語で、ファンの呼称も「男性は語尾がo」「女性は語尾がa」って分けてるんです。

加納:そっかそっか。面白いですね。確かに、私を推してくださる方が皆さんEspeciaっておっしゃってるので、もしかしたら界隈的には近いんじゃないかとは思ってました。

――まあ、あの界隈はちょっとめんどくさいですけどね(笑)。

加納:めんどくさいんですか?(笑)

――めんどくさいですけど、音楽の知識はハンパないですよ。みんなものすごい音楽好きです。だから、Especiaは好きだけど、それ以外のアイドルは全然興味なくて、洋楽が好きとかR&Bが好きとか、そういう人が多いですね。

加納:おもしろいですね。そういうのすごく素敵だなって思います。私もそういうところに行けたらいいなって。

――ただ、“Especia警察”ってのがいますから。

加納:警察?

――つまり、アーティストやアイドル、楽曲などについて「これEspeciaっぽい」って言ったら、そういう人達が“SNS上で「全然違う」とか“判定”するんですよ。ある意味“警察”のように取り締まるというか…。

加納:厳しい。すごいですね。怖いですね。気をつけないと。

――「加納エミリ、Especiaっぽい空気感ある」みたいな事を書いたら、警察来ますから(笑)。

加納:怖い。でもそれぐらい熱狂的なファンがいるってことですよね。

――まあ、あまりEspeciaのことばっかり語ってもナンですけど、ちょっと似た空気感があるというか…。いや、“似た空気感”ではないかもしれませんが、“特別な空気感”を作っているという点では共通するものがあると思います。単に「昔の音楽をやってます」っていうんじゃなくて、そうした空気感を作れる人はなかなかいないんじゃないかと思いますね。そんな風に加納さんは、昔の音楽をなぞっただけでは出せない空気感を作られてると思うんですが、どうしてそんなことができるんですか???

加納:え? どうして…ですか…???

――ある種“レトロな音楽”を再構築していると思うんですけど、その時に工夫していることとか、気をつけてることとかありますか?

加納:使う音には気をつけていますね。古いことや懐かしいことを今また同じようにやっても、「古臭いことやってるな」で終わっちゃうと思うんですよ。それだけじゃ誰も食いついてはくれないと思うので、基本的には懐かしいメロディや懐かしい音を使ってるんですけど、今っぽい音も重ねてるんですよ。そこでちょっと印象が変わるんですよね。そういうのは大事にしています。ベーシックな音は「わー、懐かしい」っていう音を使って、けど、メロディとかどこかで必ず“今っぽさ”を入れるように常に気をつけてますね。

――なるほど。ある意味「ダサい」「チープな」っていうと、“ローファイ”を連想するんですが、やはり「ローファイなのかな」と思って聴くと、音がすごく良くて…。

加納:ありがとうございます。ところどころにデジタルな音を、アナログじゃなくてデジタルな音を組み合わせてますね。

――今の方向性だと敢えて音質を悪くするみたいなのも一つの手だと思うんですが、そうじゃなくて、やはり綺麗な心地好い音にしているのが特徴かなと。

加納:バランスってすごく繊細なものだなと思っていて、例えば「ダサい」とか「隙がある」っていうのを今は大事にしてますけど、そのままダサくなりすぎると、「なんだこれ、ただダサいだけじゃん」ってなっちゃうと思うんですよね。そこがすごく難しくて。ダサいことをやってるけど、音質的にグレードが高いとか、そういう“得点が高いもの”が一つないと、「ダサい」ことがカッコ良く映らないし…。

――あぁ、そうですよね。

加納:そのさじ加減がなかなか難しいところで。

――難しい所ではありますけど、そこを上手くやられてるな、という感じがします。その「ダサさ」「突っ込みどころ」をちゃんと提示しなきゃいけない、ってことですよね。そこがきっちりできてないとその「ダサさ」が分からない。つまり、「新しい音」「カッコいい音」が無いと、「ダサさ」が映えないというか…。

加納:はい、そうなんですよね。

――それはどこで学んだんですか?

加納:メジャーに入った時に「今の音楽業界はどうなってるんだろう」といったことを初めて考えて…。やっぱり私も売れたいので、「売れるためにはどういうことをやればいいんだろう?」って思った時に、こういう考えに行き着きました。完璧なものよりは、完璧じゃないけど面白いみたいな、そんな感じのほうが「近道かも」と思ったんですよね。

――そういう思いに至った経緯やキッカケなどありますか?

加納:でもやっぱり、日本の音楽番組とか、最近人気のアイドルとかを見ていると、なんか“隙間産業”ってあるじゃないですか。王道に対して隙間産業みたいな。逆に今“王道”って王道じゃなくなってるぐらい難しくなっていて、むしろ“隙間”を狙ったほうが面白がってくれるな、っていうことに気付いたんですよね。で、自分はそちら側になろうと思って、それをきっかけにいろいろ考えるようになりました。最初はアイドルになろうって全然思ってなくて、あくまでアーティストとしてやりたいっていう気持ちしかなかったんですけど…。

――そういえば、ご自身に関して「アイドルアーティスト」と名乗っていた時がありました。でも、先日のステージでは「アイドル」という風におっしゃってました。「アイドル」ですか?

加納:アイドルでもあるし、アーティストでもあるみたいな感じで…。ちょっとその辺はどういう風に言おうか、まだ模索してるんですけどね。

――ご自身で曲を作ってご自身で歌ってるわけで、音楽もいわゆる王道アイドルの音楽ではないですよね。なので「アーティスト」って言っても全然いい状況ではあります。でも、そこで「アイドル」っていう冠をつける意図は何ですか?

加納:そうですね。やはりアイドル文化っていうのがすごく好きで。アーティストだと、オーディエンスの目線も「アーティスト」って捉え方をするので、ちょっとカッコつけなきゃいけないっていうか、クールなのが前提というか、何て言うのか難しいんですけど…。でもアイドルってすごく多種多様で、「アイドル」っていう肩書きがあったほうが、自分のやってることがいっそう面白くなるんじゃないかなって思ったんですよね。あと、もう一つ思ったのが、以前から「自分の音楽をやるんだったら振り付けを付けたいな」と。でも本格的なダンスとかじゃなくて、サビの真ん中でちょっとした振りがあるぐらいで、“ダンス”とは言いがたいものなんですけど…。だからこそ、「アイドル」の方がそういったことをやりやすいな、と思いました。そんな私が「アーティスト」として活動すると、「私はアーティストです」って言い張ってるのに、周りが「アイドルみたいだよね」って絶対言われるだろうなと思って…。それがめんどくさいので「それならアイドルになろう」みたいな(笑)。アイドルって一部の人にはちょっと訝しがられるじゃないですか? ならば最初から「私はアイドルです」って言い張った方が気持ちいなと思って…。

――なるほど、なるほど。

加納:何ていうか難しいんですけど。

――それもある意味、ご自身で“突っ込みどころ”を作ってる、ってことになるのかもしれないですよね。

加納:あぁ、そうですよね。

――でも、ホントにアイドルって面白いですよね。

加納:ホントに面白いんですよ。大好きなんです。

――実に多様ですよね。例えば、僕が“バンド”をプロデュースすることになったら、やれることが制限されちゃうように感じるんですよね。

加納:そうなんです。アイドルって無限なんですよ。しかも女の子のアイドルって、めちゃくちゃアングラな音楽でもポップカルチャーに持っていける唯一のアイコンだと思うんですよね。例えばノイズとかアバンギャルドとかパンクとかハードコアとかそういう、それこそバンドとかアーティストがやったら、もうその界隈でしか盛り上がれないところを、アイドルがやることによって、例えばノイズミュージックでも無限の可能性が広げられるというか…。だから最近で言うとPassCodeさんとか、ちょっと前だとBABYMETALさんとかその典型的な例だと思うんですよね。そういう意味で、私も“アイドル”になったんです。

――それ、すごくよく分かります。僕も“楽曲派アイドル”っていう言葉でその面白さみたいなのをいろんな所で書いてきたんですが、その一つに「古き良き音楽を若い世代に伝承する」っていう役割を担えるんじゃないか、と。例えば、大人がシューゲイザーとかクラウトロックとかサイケデリックとか、そういった古き良き音楽を作り、でも、女の子たちはそんなの何も知らないで懸命に“アイドル”をやってる、みたいなところが面白いんですよね。同時にそういうのを知らない世代がシューゲイザーやクラウトロックなどに間接的に触れる。で、そこから加納さんみたいにどんどん掘っていってみたいな人が出てくる。そういう風に音楽の可能性が広がる。“伝承”ってことにもなりますよね。

加納:アイドルは唯一それができるツールなんじゃないかなと思います。

取材・文
石川真男

加納エミリ ライブ情報

2019年2月13日(水)加納エミリ大生誕andリリースパーティ

会場:新宿Motion
OPEN 18:30 START 19:00
前売:2500円 当日 2800円(+各D代)
出演:加納エミリ、脇田もなり、KOTO、SAKA-SAMA

加納エミリ 商品情報

発売中
『EP1』

EP1

加納エミリ公式オンラインショップ、ディスクユニオンにて発売中。
また大阪ではハワイレコードでも取り扱い決定!


2月13日リリース

「ごめんね/Been With You」7inch盤
NRSP-755

No image

加納エミリ公式通販のほか、HMV、タワーレコード、各レコードショップにて発売予定。
リリースイベントも開催決定!

 

 

PROFILE

PROFILE
加納エミリ

1995年生まれ。北海道出身。2018年5月にデビュー。
19歳から楽曲制作を始め、作詞・作曲・編曲などを全て自らで手がける。80年代ニューウェイヴ・テクノ・インディーロックなどをルーツとした楽曲を完全セルフ・プロデュースで制作。2019年1stアルバム「GREENPOP」、2020年アルバムからのカットで12インチ・シングル「恋せよ乙女」をリリース。