Speak emo

2019.01.09
加納エミリ

新しいアイドルの可能性を私が作りたいな、って

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日本特有の美意識として知られる「わび」「さび」。とりわけ「わび」は、岡倉天心が著書『The Book of Tea』で「imperfect」という形容詞を用いて表現したことからも分かるように、「不完全なものを愛でる」といった感覚であり、いかにも日本独特の“抑制された美的センス”と言うべきものだ。

それはある意味、これまた日本特有と言うべき“アイドル文化”と相通じるものがあるのではないだろうか。しばしばK-POPアイドルは「完成された表現を競い合うもの」、一方日本のアイドルは「拙いものが成長していく様を愛おしむもの」といった対比で語られる。そういう意味では、日本特有の“アイドル文化”の根底には、不完全なものに美を見い出す「わび」があると言えないだろうか。

そして、この加納エミリ。インタビュー中でも語られているように、「不完全なもの」「隙のあるもの」に惹かれ、そうした音楽を自らの手で作り、歌い踊る”アイドル”である。そういう意味では、アイドルとしてはかなりの”飛び道具”ではありながら、今最もアイドルの本質に迫る、さらに言えば、日本の伝統的美意識を新鮮な形で体現する”アイドルアーティスト”と言えるかもしれない。ニュー・オーダーやオーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダーク、カイリー・ミノーグや森高千里などを連想させる、古き良き、そしてちょっとダサいとされていたエレポップを新鮮な筆致で描き直したサウンドと、一度目にしたらなかなか頭から離れない”衝撃的”とも言える振付けで、ぐんぐん頭角を現している。

ちなみに「さび」は、「経年変化の中に美を見い出し、華やかなものとの対比を愛でる」というもの。そういう意味では、80年代90年代エレポップ、ディスコなど「長い年月を経て、一時期は”時代遅れ”とされたもの」に「不完全さ」という魅力を見い出し、そこに同時代的な音も加えてコントラストを打ち出しながら再構築する、という点において、まさに「わび」「さび」両方の日本人的美意識に則った表現を実践しているのかもしれない。

重要なのは、彼女がそれを“戦略”として意図的にやっていることだ。いや、彼女が生得的に持つ“勘”によって築き上げられた部分もあるかもしれないが、そうしたセンスも含め、彼女が逸材であることは間違いない。

まさに彗星のごとくアイドルシーンに現れた加納エミリ。2018年5月より活動を始め、当初こそ燻っていた時期もあったようだが、昨年秋頃から俄然注目を浴びるようになる。SAKA-SAMAとのツーマン、割礼や姫乃たまや3776などが出演した『ブラックナードフェス』、WHY@DOLLやユメトコスメ、脇田もなり、星野みちる、Orangeade、澤部渡らとの共演となった『涙』など、耳の肥えたリスナーたちの集まるライヴに次々と出演し、大きなインパクトを残してきた。2019年はさらなる飛躍の年となるだろう。あたかも撒き餌のごとく”ツッコミどころ”がちりばめられた中毒性の高いサウンドや振付けで、より一層多くのオーディエンスを“釣り上げる”ことは必至だ。

そんな加納エミリに、彼女独自のエレポップ・サウンド、そして振付けや歌詞、さらにはアイドル観などについてお話を伺った。

俗に言う“飼い殺し”ってやつですね(笑)

――2018年5月のデビューとのことですが、それ以前は…?

加納:東京の音楽スクールで1年間勉強をしていました。その後、あるレーベルで2年ちょっとぐらい…まぁ、水面下でですけど…お世話になっていました。

――それは“デビューを目指しての育成期間”みたいな感じだったんですか?

加納:そうですね。一応メジャーレーベルだったので、メジャーデビューできるように…。その時はライブ活動とかは全然できてなかったので、ひたすら曲を作り続けてた、って感じでしたね。

――そういうケース、結構ありますよね。

加納:俗に言う“飼い殺し”ってやつですね(笑)。

――あぁ…。

加納:全然書いていただいて構わないですよ(笑)。

――むしろ“書いた方がいい”ですか???

加納:むしろ!(笑)ハハハ(笑)。

――で、札幌のご出身なんですよね。

加納:はい。

――上京してきたのは高校卒業してからですか?

加納:高校卒業してから1年間は、札幌でバイトして、東京へ行くための資金を貯めて、その翌年に上京して、音楽スクールに入りました。

――音楽がやりたくて上京してきて、スクールで音楽を学んだ後、“飼い殺し”期間を経て(笑)、意を決してソロでやろうと。しかもフリーで。

加納:そうですね。ちゃんと始めたのが2018年の5月。

――それって、何かきっかけとかあったんですか?

加納:フリーで始めるきっかけですか? そうですね。最初からメジャーデビューってことしか頭になかったので、契約解除になったときはかなり落ち込みましたし、音楽やめようとは思ったんですけど、でもやっぱりやめたくないなと思って、まずはフリーになってデモテープを送りながら活動しようと…。最初はそんな気持ちでフリーランスになりました。

――どうですか? やはりメジャーデビューしたいっていう意識はありますか?

加納:いえ、今は「何が何でもメジャーでやりたい」という意識はなくて…。行けるところまでフリーランスでやりたいです。すごい“上から”で申し訳ないんですけど、メジャーって1つのツールにしか過ぎないと思ってるので…。メジャーの力を使って自分の目標を成し遂げるっていう感じなので、決してメジャーデビューが“目標”ではないです。

――なるほど。でも本当にそう思いますよ。今、周りを見てても相変わらず「メジャーデビューが目標です」って言ってる人が…

加納:かなり多いですよね。

――そうですよね。でも、もう目標にする必要はないのかなと。まあ、メジャーから声を掛けられたらやってもいいかもしれないですけど、まずは自分がやりたいことをやる。今は、まさに加納さんのように1人でもできますし、だんだん活動規模が大きくなってくれば、その時は“対等なパートナー”としてメジャーと手を組めばいいんですよね。

加納:そういう使い方でいいかなと思います。

――で、僕が加納さんを“見つけた”のが数ヶ月前で、最近のことは知っていますが、5月からそれまでは、どこでどのような活動をされていたんですか?

加納:やはりフリーランスってことで全然コネもパイプも何も無い状態だったので。なので、今はなかなかやらないらしいんですけど、ライブハウスなどにデモテープを送って出演させてもらっていました。そんな風にやっている内に、私のことを見てくださった地下アイドルの運営の方からメールいただいたりして徐々に活動範囲が広がっていって…。最初は秋葉原とかが多かったんですよね。でも、どうやら私は“アキバ系”ではないらしく、最初は全然ウケなくて、かなり苦しい日々が続きました。苦労しましたね。

――その頃ってどのくらいのペースでライブをやってたんですか?

加納:多い時は月に7、8回とか。1日に2回やったりしてました。

――バイトとかしながらですか?

加納:そうです。アルバイトを週4でやって、土日両方とも秋葉原とか、上野のほうにも当時出てた箱があって、そこでも時々やったりしてました。

――最近はもう、いろんなところから声が掛かるようになりましたね?

加納:そうですね、ありがたいことに…。皆さんのおかげですごい素敵な方ともご一緒させていただくことが増えました。だんだん活動してくにつれて、私のことを知ってくださる関係者の方が増えて、その関係者の方からイベントにお誘いしていただいたりとか、あとは私のことをTwitterで知ってくださった方からご連絡をいただいたりとか…。出るイベントが増えて、本当にありがたいなと。例えば、今すごくお世話になってるTRASH-UP!さんが運営しているSAKA-SAMAさんとか、あとは私が個人的にファンなんですけど、KOTOちゃんとか、そういう楽曲がすごく素敵なアイドルさんと一緒にやりたいなとずっと思ってたんですけど、なかなかそこには辿り着けず…。ようやく、だんだんと私も近付けるようになってきた感じですね。

――なるほど。

加納:だんだん自分の目指してる場所に近づいてきたかな、っていうのは実感してます。

――SAKA-SAMAさんとは先日ツーマンライブをやられましたよね。

加納:SAKA-SAMAさんは大好きなんですよ。すごく素敵で、顔も可愛らしくて曲もカッコいいみたいな。運営の屑山さんと連絡を取り合うようになって、SAKA-SAMAさんと会う機会が増えるなと思って、SAKA-SAMAさんのことをいろいろ調べたんです。音源とかライブ映像を視聴したんですけど、ホントに「アイドルっていいな」って思わせてくれるアイドルさんですね。自分も「アイドルになれてすごい素敵だな、素晴らしいな」って思うようになって、そう思わせてくれるSAKA-SAMAさんがまたスゴいなって。そういう方々と関われることがとても幸せだし、自分も「もっと頑張ろう」って改めて思わせてくれたんですよね。本当に素晴らしいなって。尊いなって。ただのファンです(笑)。

――KOTOさんとは?

加納:まだ面識もなくて。

――そのうち共演しますよ。

加納:2019年はぜひ共演させていただけたらいいなと思いますね。

――でも、そういう意味では、5月から約8ヶ月でこういう状況になってるって、すごいトントン拍子じゃないですか?

加納:そうですね。自分でも思います。でも、もちろん私一人の力ではなくて、本当に周りの方のサポートでここまで来てるので、自分もそれに応えられるように、これからも頑張りたいなって思います。

取材・文
石川真男

加納エミリ ライブ情報

2019年2月13日(水)加納エミリ大生誕andリリースパーティ

会場:新宿Motion
OPEN 18:30 START 19:00
前売:2500円 当日 2800円(+各D代)
出演:加納エミリ、脇田もなり、KOTO、SAKA-SAMA

加納エミリ 商品情報

発売中
『EP1』

EP1

加納エミリ公式オンラインショップ、ディスクユニオンにて発売中。
また大阪ではハワイレコードでも取り扱い決定!


2月13日リリース

「ごめんね/Been With You」7inch盤
NRSP-755

No image

加納エミリ公式通販のほか、HMV、タワーレコード、各レコードショップにて発売予定。
リリースイベントも開催決定!

 

 

PROFILE

PROFILE
加納エミリ

1995年生まれ。北海道出身。2018年5月にデビュー。
19歳から楽曲制作を始め、作詞・作曲・編曲などを全て自らで手がける。80年代ニューウェイヴ・テクノ・インディーロックなどをルーツとした楽曲を完全セルフ・プロデュースで制作。2019年1stアルバム「GREENPOP」、2020年アルバムからのカットで12インチ・シングル「恋せよ乙女」をリリース。