Speak emo

2020.10.22
加納エミリ

加納エミリ | 曲が出来るかなり前から「朝になれ この恋を忘れるまで」っていうフレーズだけがずっと頭にあって…

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今年の4月11日、加納エミリは突然“活動休止宣言”をツイッター上で発表した。これには大いに驚かされた。

 

というのも、2018年末あたりから頭角を現し、2019年は一年を通してグングン知名度を上げ、“ネクスト・ブレイク・アーティスト”として衆目を集めるまでとなり、2020年はいよいよ飛躍の年になると期待されていた矢先のことだったからだ。

 

そして、その理由としては「体調不良」と記され、「すぐに復活するかもしれないし、時間がかかってしまうかもしれない」とも述べられていた。大いに心配した。もしかしたら、もう復帰することもなく、このまま音楽活動を辞めてしまうのでは?と危惧したりもした。

 

まぁ、無理もなかろう。作詞作曲編曲はもとより、プログラミングからプロデュース、さらには振り付けやマネージメントやブッキング、そして納得がいかなければミックスまで自らの手で行なう、掛け値なしの“完全セルフプロデュース”であり、しかも自ら「完璧主義者」と称するゆえに、知名度が上がって周囲が騒がしくなっていけば、単なる“パフォーマー”の何倍もの負担がかかってくるのだ。また、このコロナ禍による様々な制限も彼女の心身に大きな影を落としたことだろう。その傷が深くなければいいのだが…。そんな懸念は日増しに大きくなっていった。

 

だが、それは杞憂に終わってくれた。“活動休止宣言”から約4ヶ月後。思ったよりも早い“復活宣言”を出してくれたのだ。しかも、素晴らしい新曲「朝になれ」を引っ提げて。

 

「朝になれ」は、様々な意味で示唆的である。

 

まずそのサウンドは、“NEO・エレポップ・ガール”としてシーンに颯爽と現れた彼女のイメージとは大きく異なり、ギターをメインに据えたものとなっている。もっとも、彼女の音楽の多様性は昨年11月にリリースされた1stアルバム『GREENPOP』にも示されており、また“ギターバンド然としたサウンド”は昨年12月の“GREENPOP”レコ発ワンマンライブでも大きく打ち出されてはいたが…。ともかくも、この一曲によって加納エミリの新たな一面が明確に示されたのみならず、ここからあらゆる方向へと進むことができる可能性を示唆するものとなった。

 

そしてこの曲は、彼女のメロディメイカーとしての才能を示すものでもある。一度聴いたらスッと入り込んでくる旋律。その譜割や抑揚などに、レトロなものを愛でる彼女の本質的な感性が垣間見られ、それゆえに表現者としての“軸の強さ”も示されていて、より説得力を帯びている。

 

「朝になれ」は“祈りの歌”である。東京での悶々とした生活のことが歌われており、その虚無感の中から滲み出てくる祈りは、極めて個人的なものであるにも拘らず、いや、極めて個人的であるがゆえに、根源的で普遍的な響きを獲得している。

 

そしてそこには、それを受け入れることによって生じる、微かな“強さ”や“希望”のようなものも感じられる。ゆえに、この曲を聴くたびにじわじわと心に染み、次第に心揺さぶられるのだ。

 

そんな新曲をリリースした加納エミリにお話を伺った。この取材後に行われた復活ライブでも、ブランクを感じさせない見事な歌いっぷりを披露してくれた彼女だが、このインタビューでも、画面越しに元気な姿を見せてくれた。そして、北海道での休息期間について、新曲「朝になれ」について、そして「アイドル」や自らの立ち位置についてなど、たっぷりと語っていただいた。ぜひご一読いただき、彼女の元気な姿を感じ取っていただきたい。

 

 

 

 

 

 

 

今の目標は家族とお世話になっている方々へ恩返しすることしかなくて

 

 

 

ーーまずは、やはり活動休止のことを少しお訊きしておかないとと思うのですが、4月11日にTwitterで発表された時は、本当に突然だったので驚きましたし心配しました。

 

加納エミリ(以下:加納):はい。ご連絡もいただいちゃって。

 

ーーいえいえ。活動もすごく順調で"ブレイク前夜"といった状況だったので、本当にびっくりしました。言える範囲で構わないんですが、やはり体調が悪かったということですか?

 

加納:身体的なこともそうですし、内面的にもちょっと調子を崩してしまったというか…。

 

ーーなるほど。で、4月11日にそういう発表があって、すぐに北海道は札幌のご実家に戻られたんですか?

 

加納:はい。もうすぐに帰りましたね。

 

ーーで、復帰されたのが8月の…。

 

加納:お盆明けの8月17日です。

 

ーーその間はずっとご実家に?

 

加納:そうですね。所用があって少し東京に戻っていた時期もあったんですが、ほとんど北海道で過ごしてました。

 

ーーあぁ、Twitterで少し呟かれていましたよね。それは音楽関係のお仕事で?

 

加納:いえ。新居探しでどうしても東京に戻らざるを得なくなって…。少しの間でしたけど…。お家が決まって、手続きとかその他のことが終わってから北海道に戻って、そこからまた1カ月半ぐらい実家で過ごしていました。

 

ーー一時期東京に戻りつつも、基本的には札幌で、と。その活動休止期間には、曲作りなど精力的にされていたんですか? それとも音楽を断っていた時期もあったんですか?

 

加納:最初の1カ月ぐらいはもうまったく何もできなかったんですが、それを過ぎたらもう曲を作ってましたね。

 

ーーなるほど。でも逆に言えば、最初の1カ月は音楽には触れなかった、と。もちろん聴いたりはされてたとは思うんですが…。

 

加納:そうですね。でも、なんか本当に時間がある時にしか聴かなかったです。あまり聴かなかったですね。

 

ーーそうですか。その時期は何をされてたんですか?

 

加納:えっ、何してたんだろう…? あまり憶えてないんですよね。まぁ、実家なのでお母さんの作った美味しいご飯を食べて(笑)。あとはゲームしたりとか、ひたすら寝てたりとか、“廃人の生活”をしてました。

 

ーー北海道って一時期コロナで大変でしたもんね。2月末から3月中旬まで緊急事態宣言が発令されて…。

 

加納:そうですね。一番最初にコロナが広がったみたいなところもあるので。でも、私が帰った時はもう酷くはなかったですね。まぁ、そこそこ多かったんですけど、東京の方が全然多かったと思います。

 

ーー加納さんが札幌に戻られたのは、ちょうど東京が緊急事態宣言を出した直後ぐらいでしたよね。

 

加納:そうですね。

 

ーー活動休止はコロナの影響もありましたか?

 

加納:かなり大きかったと思いますね。

 

ーー体調が悪くなったっていうのも、コロナの影響でライブができないとか、外出できない、人と接触ができない、といったことが要因でもある、と。

 

加納:そうですね。大きいです。

 

ーー単刀直入に言っちゃいますけど、数年前に「メジャーレーベルでの“飼い殺し”の時期があった」と最初のインタビューでおっしゃったじゃないですか。

 

加納:そうですね。

 

ーーそんな時にも体調不良みたいなものはあったんですか?

 

加納:いや、あの時は落ち込んだのは落ち込んだんですけど、今回みたいな感じではなかったですね。こういう体調不良は初めてでしたね。

 

ーー初めての経験だったわけですね。

 

加納:人間なので、どうしても落ち込む時ってあるじゃないですか。でも自分は全然まだ平気だと思ってたんですよ。で、去年のスケジュールがすごく忙しかったんですね。全然売れてもないのに「なんでこんな忙しいんだろう」って(笑)。

 

ーーいやいや、売れてきてたじゃないですか。

 

加納:う~ん。なんだろう。フリーランスなので自分のことは自分でやんなきゃいけないという忙しさもあって。去年アルバムをリリースした時にプロモーションとかイベントとかがすごく重なって、肉体的にも精神的にも毎日結構キツかったんですね。多分その蓄積が、今年のコロナで「グハッ」て(笑)なっちゃって。それでようやく自分の状態に気づいたというか…。

 

ーーそういう意味でも、北海道に帰られたということは、環境の変化という点で、やはりエミリさんにとってはいい影響を及ぼしたわけですか?

 

加納:そうですね。過ごしやすいですし、一番落ち着く場所ですね。

 

ーー東京の水は合わないですか?

 

加納:いやいや、まぁ慣れました。でも、私も19歳の時に上京したのでもう5~6年になると思うんですが、最初の2年ぐらいは「東京楽しいな」みたいな感じだったんですけど、だんだん東京の窮屈さを感じてきて…。そういう中で北海道に帰ると、北海道って土地が広いじゃないですか。車とか人も東京みたいに多くないですし。あとは気候も涼しくて過ごしやすいとかで、すごくリラックスできてリフレッシュできましたね。自分の人生の目標もこのコロナで変わりましたし、北海道に帰ったおかげで、「本当に大切にするものは何なんだろう」みたいなところとかも前と変わったので、結果的に良かったかなと思ってます。

 

ーーよろしければ、その辺のところを聞かせていただければと思うんですが。「本当に大切にするもの」って何でしょうか?

 

加納:はい。今までは"自分の結果"しか見てなかったんですよね。数年後にどこどこまで行って、さらにその何年後かにこういうことがしたいっていう、自分の仕事に関する目標しか考えてなかったんですが、実家に帰って、家族ととても仲がいいので、その家族と時間を過ごしてると、仕事も大切だけど一番大切にすべきものって自分のことを支えてくれる人とか守ってくれる人だな、ということに恥ずかしながら初めて気付きまして…。なので、今の目標は家族とお世話になっている方々へ恩返しすることしかなくて。で、家族に恩返しするにはやはり多少お金もかかることなので、おのずと仕事もついてくるというか、稼げるようになるまで仕事が上手くいくようにしなきゃ、って思うようになったというか…。そういう変化がありました。

 

ーーなんか、その若さでそういうことに気付くってうらやましいですね。僕なんかこの歳になってやっとそういうふうに思えるようになったって感じですよ。でも、ちょっと揚げ足を取るような言い方になっちゃうかもしれないですが、家族に恩を返すためにお金を稼がなきゃいけない、と。それは別に音楽に限った仕事でなくてもいいということですか?

 

加納:いえ。やはり自分のやりたいことで叶えたいですね。今回のコロナ禍で分かったことですが、「音楽ってすごくもろいものだな」って。人間が生きてく上で必ずしも必要なものじゃないじゃないですか。「プラスα」というか…。こういう切迫した時期に音楽などのエンターテインメントは必ず削られちゃう部分なのかな、と思っちゃって。なので「音楽ってなんでやってるんだろう」って思うんですが、結局自分が今楽しいと思えることが音楽以外にないので、自分が楽しいなって思えている間は音楽を続けていきたいなと思ってます。逆に、なんかもう音楽楽しくないなと思ったら辞めると思います。

 

ーーなるほどね。これは辞めない人の意見ですね(笑)。

 

加納:いやいや、わかんないです(笑)。

 

ーー僕も大学を卒業して就職する際に、音楽業界か、銀行とかそういう企業に入るか迷ったんですけど、人生が二度あれば一回ずつやればいいけど、一度だから好きな方をやろうと。で、音楽に関連する仕事に就くことで音楽が嫌いになったらその時点で辞めよう、って思ってこの業界に入りました。

 

加納:そうですね。私もそういう感じです。

 

ーーでも、結局なんだかんだしがみついてますから(笑)。で、この活動休止期間で「考え方が変わった」とおっしゃいましたが、音楽観といったものも変わりました?

 

加納:うーん。やりたいことは変わらないですけどね。やっぱりどっちかというと“トガッてる”側にいたいっていうのはあります。“カウンター”側の方にいたい、みたいな。

 

ーーなるほど。レーベルという意味での「メジャーかインディーか」っていうのではなくて、サウンド的な意味というかマインド的な意味でのインディーでいたい、と。ファンクラブ「EMIRI CLUB」のブログでもそんなようなことを書かれていました。

 

加納:(笑)。あ、そうです。え? 入ってるんですか?

 

ーー入ってますよ。

 

加納:えーっ! すいません(笑)。

 

ーー開設されてすぐに入りました。読んでますよ。

 

加納:えー、恥ずかしい。

 

ーーそんな風に「インディーであり続けたい」「トガッていたい」ということですが、例えば具体的な方策として、今回ある意味“再チャレンジ”という側面もあるじゃないですか。となると、“同じ徹を踏まない”ための対策というか、プランというか、そういったものが必要だと思うんですが…。前回のインタビューのときに加納さん自身の中に“パフォーマー”と“コンポーザー”と“プロデューサー”の3人がいて、まぁ“振り付け師”とか“マネージャー”などもあるのかもしれないですが、負担がすごく大きいじゃないですか。でも、今のところは同じ形で行く感じですか? 例えばもっとスタッフを増やすとか、どこかの事務所に入るとか。

 

加納:そうですね。今はライブなどできない状況なので具体的には動いてないですが、来年あたりでコロナが落ち着けば、その時にマネジャーさんをつけたりとか、あとは共同で音楽制作をしてくれる方たちとチームを作りたいなというのはずっと思っています。

 

ーーこれまではある意味全部やってたわけですもんね。そういう意味では、マインドはインディーのままで、フリーランスでやりながらも、もう少し組織のようなものを作っていこうというような感じですか。

 

加納:はい。

 

ーー例えば、それによって加納さんの音楽って変わりますかね。

 

加納:いや、自分的にはブラッシュアップの意味を込めてそういうチームを作りたいと思っているので…。やっぱり自分の能力だけだと、それでいいものができるという自信はあるんですが、やはり他の方のノウハウやセンスや才能をお借りして作った方が絶対にもっといいものになるんじゃないか、とずっと思っていて…。なので「自分一人でやってます」ってことに正直そんなにこだわりもないので、みんなで音楽をやっちゃおうというか…。やはり自分の仕事を全うするためには、マネジャーさんとかスタッフさんは必要だなって思いますね。

 

取材・文
石川真男

加納エミリ 商品情報

〈配信シングル〉

配信シングル

「朝になれ」
約10ヶ月振りとなる新曲「朝になれ」が9/25にデジタルリリース
iTunes、Apple Music、Spotify等で配信中

 


〈7inchアナログレコード〉

アナログ版

「朝になれ」
価格:1,500円(税抜)
発売元:なりすレコード
品番:NRSP-794
発売日:2020年11月25日

収録曲
A面:朝になれ
B面:Because Of You (2020 MIX)

 

加納エミリ ライブ情報

フライヤー

 

EMIRI KANOU BIRTHDAY PARTY
日時:2021年2月17日(水)
場所:渋谷WWW
開場 18:30 / 開演 19:30
料金:¥3,500 (+1ドリンク別)
配信チケット料金 ¥2,500

Band Member
渡瀬賢吾(Gt) / KAZUYA(Ba) / Manaka(Dr) / Kanna(Syn)
※追加チケット、配信チケットの販売は後日発表

 

PROFILE

PROFILE
加納エミリ

1995年生まれ。北海道出身。2018年5月にデビュー。
19歳から楽曲制作を始め、作詞・作曲・編曲などを全て自らで手がける。80年代ニューウェイヴ・テクノ・インディーロックなどをルーツとした楽曲を完全セルフ・プロデュースで制作。2019年1stアルバム「GREENPOP」、2020年アルバムからのカットで12インチ・シングル「恋せよ乙女」をリリース。