Speak emo
nuance「横浜の懐の深さとJ-POPが重なるのかなって思ってるんですよね」
このグループの本質を掴むことは容易ではなかった。
その楽曲を聴くにつけ、そのパフォーマンスを観るにつけ、その風貌や佇まいを目にするにつけ。
AI美空ひばり「あれから」の作曲者として一躍脚光を浴びた佐藤嘉風がサウンドプロデュースを手掛けるその楽曲は、多くの“楽曲派”から圧倒的な支持を得つつも、“スタイリッシュ”へと全面的に傾くことはなく、どこか歌謡曲の持つ“野暮ったさ”のようなものを纏っている。あたかも「カッコつけることはカッコ悪い」という永遠の命題を改めて我々に突きつける—-といった安易な忠告などではなく、その裏に何かまた別の仕掛けがあるかのような…。
その歌唱は聴き手を捻じ伏せるような圧倒的なパワーを有するものではないが、その内省的な語り口はそれゆえにじわじわと聴き手を引き込んでいくような不思議な魅力に満ちている。そして、浅野康之(劇団鹿殺し / TOYMEN)が振付けを施すそのパフォーマンスは、いわゆる“ダンスグループ”の熱量を一気に発散するものではなく、そのアーティスティックな表現によってじわじわと高揚感を掻き立てるもの。
そしてメンバーに対しては、衣装や佇まいから「地元に愛される育ちの良いお嬢様」のような印象を抱いたのだが、その言動を見聞きすると、どうやら一筋縄ではいかないようで…。
だが、楽曲を聴き込み、現場に幾度か足を運ぶことで、少しずつ見えてきたような気がした。
nuanceとは「話し手が言外に示す意図」あるいは「色や音の微妙な差異」ということ。それはすなわち「そのもの」ではなく、そこからわずかに「異なるもの」ということだ。
そのものを提示するのではなく、それから少しズラすことで受け手のイマジネーションが膨らむ余地を設け、そのことによりその本質以上に魅力的な幻想世界を生じさせる。我々が目にする“現実”は、視覚を通して受け取る情報をもとに我々の意識が紡ぎ上げた“幻想”に過ぎない。そういう意味では、“幻想世界”を提示することは、“現実”を炙り出すことと同義なのかもしれない。そしてそれこそが、nuanceに漂う不思議な魅力の正体なのかもしれない。
だが、このたび取材をする機会を得たことで、ますますわからなくなってしまった。気配りと優しさに満ちた言動ながら、時に辛辣さや頑固さを覗かせるmisaki。おっとりとした受け答えの裏に芯の強さをわずかに覗かせ、その場を穏やかに落ち着かせる、わか。問い掛けに対する答えのほとんどが“沈黙”というなかなか手強い取材対象ながら、時に繰り出す言葉が実に鋭く味わい深い、みお。そして、何かが憑依したかのごとく声色を変え、身振り手振りも交えながら受け答えしつつも、それは決して「どうにか気持ちを伝えよう」と試行錯誤しているのではなく、むしろ「簡単には気持ちを悟られないようにしよう」と撹乱しているかのような珠理。いずれもなかなか手強い相手だ。
横浜の商店街が企画するイベントのテーマ曲を歌うアイドルユニットとして2017年3月に結成。これまで3枚のシングルと4枚のミニアルバムをリリースしてきたnuance。ワンマンライブや定期公演、主催ライブなども数多く行い、その優れた楽曲やパフォーマンス、そして独特の世界観がじわじわと評価を得てきた。
5枚目のミニアルバムとなる最新作『botän』では、グループそのもの、あるいは各メンバーそのものが“nuance”(すなわち差異やズレ)を確立したためか、楽曲自体は(多彩な音楽要素を内包するものの)どこかストレートな筆致で描かれている印象だ。
ア・サーティン・レイシオやザ・ポップ・グループあたりの英国ニューウェイヴ・バンドがエスニック・ファンクをやっているかのような「I know power」。ダイナミックな落差を有するドラマティックJ-POPロック「雨粒」。ジャジーなギターのループの上で、いつになく攻撃的なラップと叙情的な歌とが味わい深いコントラストを描く「ハーバームーン」。おっと、またメンバーに怒られそうなので、ウンチクを傾けるのはこれぐらいにしておこう。
3月10日には昨年4月に引き続き、再び渋谷O-EASTにてワンマンライヴが行われる。2つのバンドが1つにステージに立ち、色彩豊かなアンサンブルを奏でていくとのこと。そうした豪華な演奏陣を従え、nuanceの4人がどのような音楽絵巻を繰り広げていくのか。今一度彼女たちの本質を見極めに行くとしよう。
ワンマンライブを翌月に控えたmisaki、わか、みお、珠理の4人にお話を伺った。
わからないままずっとやっている感じです(珠理)
ーーいきなり直球で行きますが、nuanceってどんなグループなんですか?
わか:えー、なんだろう…。自分の中ではどんなグループか定まってないんですけど、よく言われるのが「曲がいい」とか「フリがいい」とか「衣装が可愛い」とかですね。自分的には、なんだろう、他のグループとは結構違うというのは感じます。曲もそうですし、なんか雰囲気が…。結構珍しいかなって思います。
ーーツッコミたいところもあるんですが、まずは皆さんにお聞きします。
珠理:nuance …。どんなグループ…。どんなグループ???
misaki:珠理のファンからはどんな風に言われるの?
珠理:ないよ、ないない。
misaki:言われない?
珠理:そういうことあんまり訊かないから。
misaki:他と似ているところでもいいんじゃない?
珠理:nuanceというジャンルではあるよね。他のアイドル、楽曲派アイドルとも何か違うし、でも「ウェーイ」みたいな盛り上がる系でもないし…。なんか、よくわからないなって思う。
misaki:掴めない、みたいな?
珠理:ちょっとわかんない。
misaki:「わかんない」もアリだよね。未だ掴めず、みたいな。
珠理:わからないままずっとやっている感じです。うん。
ーーあの~、今日misakiさんに“仕切り”を全てお任せしていいですか…?
misaki:えぇ~!何でですか?
ーー見事な仕切りなので(笑)。
misaki:(笑)。人の話に頷くのが好きなんですよ。
ーーぜひお願いします。
misaki:はい。じゃあ、続いてみおちゃんお願いします。
一同:(笑)。
みお:みおです。質問なんでしたっけ?
misaki:nuanceとは? 自分にとって。
みお:え…。う~ん……。……。え…。……。え……。………。
ーーこれ文字にしますから。今の沈黙を(笑)。
みお:う~ん…。わかんないです。
misaki:曲は?
みお:曲? 沸けるけど沸けない、みたいな。
一同:(沈黙)
みお:えっ?わかる???
わか:わかる、わかる。
ーーでは、次に参ります。misakiさん。
misaki:え~、結構わかが言っていたことと同意する部分が多いんですけど…。でも曲は、メジャーで活動しているアイドルさんたちのものに全然負けないぐらいいいなと思っていて。nuanceを私が続けたいと思う動機を挙げるなら「佐藤嘉風さんの作る曲がいいから」っていうのが一番に来るぐらい、曲に対する思い入れはすごく強いですね。
ーー俗にいう”楽曲派アイドル”という感じなんですかね。
misaki:なんですかねぇ。
わか:よく言われる。
ーーそもそもなんですが、”アイドルグループ”ですよね?
misaki:最初のころは「グループではなくてユニットって言え」みたいに言われてなかったっけ。
わか:そうだっけ…。
ーーグループとユニットってどう違うんですか?
misaki:“ユニット”はシュッとした感じだよね。
一同:(爆笑)。
misaki:初期の頃ラジオに出させていただいた時に、先方のスタッフさんが用意した自己紹介の文言に「アイドルグループ」って書いてあったんですけど、フジサキさん(nuanceのプロデューサー)がぴっぴって二重線を引いて「ユニット」に直していたのを覚えてます。
わか:そうだっけ。初めて知った。
misaki:なので、そこら辺のこだわりはあの頃はあったのかなって。今はわかんないですけど。
ーーなるほど。僕がお訊きしたかったのは「アイドルかどうか」っていう部分なんですが…。
misaki:あぁ。アイドルではあると思います。アイドルをやりたいって宣言していましたから。
わか:うん。もともとアイドルを募集していたので「アイドルをやるんだろうな」という気持ちでみんな入ってきてると思います。
nuance ライブ情報
2020.03.10.(火)at 渋谷TSUTAYA O-EAST
naucen oneman tour “osu” tour final 【PEONY】
OPEN 18:30 / START 19:00
ADV 3,500 DOOR 4,000(+1D)
・チケット
https://eplus.jp/sf/detail/
nuance 商品情報
2019.12.18リリース
5th mini album『botän』
1.tsukeru(作曲:佐藤嘉風)
2.I know power(作詞・作曲:佐藤嘉風)
3.雨粒(作詞・作曲:yukiko / 編曲:佐藤嘉風)
4.ハーバームーン(作詞・作曲:佐藤嘉風)
5.Which ’s Witch(作詞・作曲:オレノグラフィティ / 編曲:佐藤嘉風)
6.ピオニー(作詞・作曲:志賀ラミー)
7.きっといつか(作詞・作曲:佐藤嘉風)