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2022.10.08
Aphrodite

しんみりすることなく、終焉のときまでずっと興奮と狂乱の場を作りながらAphroditeは一つの歴史の幕を閉じていった。そして、次なる再生へ…。 Aphrodite ライブレポート

一つの歴史の歩みが止まる。ただし、先に言っておくと、これは終焉ではない。新たに蘇るための一つの物語の終章。9月30日(金)、Aphroditeは渋谷クラブクアトロを舞台に、現体制としては最後になる公演「Aphrodite単独公演 終章~Chapitre final~」を行なった。当日の模様を、ここに伝えたい。


 破壊的な音がフロア中を埋めつくす…いや、これは破壊的ではない。場内中の人たちの理性を崩す崩壊の音色だ。

  ライブも、冒頭から轟音どころではない超破壊的な音を突きつけ、幕を開けた。『EDEN』に乗せ、4人は観客たちを煽る。Aphroditeにとって、ノイズのような轟音こそが、訪れた人たちと共に楽園を構築してゆくための最上級の音色。鼓膜が破れそうなほどの激音の中でもメンバーたちの煽る叫びや歌声が明瞭に響けば、胸を揺らす。なんてカオスでシンフォニックかつ恍惚な宴の始まりだ。

 「なぜ悲しいの なぜ苦しめるの」と、悲哀を抱いた声が響き渡る。流れだした『Ēlysion』に合わせ、力強く拳を振り上げるメンバーたち。耳目の調律が狂いそうな轟音の中、4人の黒い女神たちの美しくも絶叫した歌声をガイドに楽曲へ触れていると、不思議と恍惚した気持ちに心が染まる。ノイズの中から届く彼女たちの歌声は、まるでローレライの歌声のよう。そこに酔ってしまった後のことは…今は、考えずにいよう。

 続く『lament』でも、4人が猛々しい声を響かせ観客たちを煽る。黒い音が渦巻く中、彼女たちの歌声が気持ちを高陽へと導く。いや、4人が高陽した気持ちで歌うことで、黒い熱を持った歌声へ心が自然に引き寄せられていた。メンバーらの振り上げる拳に合わせ、フロア中からもたくさんの拳が突き上がる。

  黒い女神たちの接吻は、唇が痛いくらいに刺激的だ。雄々しい声で『ユダの接吻』を歌いあげるメンバーたち。4人の動きに合わせ、フロア中の人たちも同じ動きをしながら、心をシンクロさせていた。轟音の抱擁と女神たちの唇を噛むような歌の接吻に触れ、意識が朦朧としてゆく。鼓膜が震え続ける中、鼓動を奮わせる歌声や姿に視線が釘付けになっていた。

  漆黒の音が渦巻く舞台の上で、『creator』を華麗に舞い歌うメンバーたち。ときにクラップをしながら、4人は終始熱い誘いをかけながら、フロアにいる人たちと一体化した繋がりを求めていた。だから、その姿に触れたくて心の手を伸ばしていた。

 荘厳かつシンフォニックな音を合図に、これまで以上に轟く音を響かせ、楽曲が走りだす。ときに激しく煽りながら、サビでは4人の思いを重ね合わせ、高陽した気持ちを胸にメロディアスな歌を響かせていた。『GENESIS』が、一つの時代の創生から終生までの物語を伝えてきた。Aphroditeがここに至るまでに描き続けた終末思想の一章一章が、彼女たちの歌声を語り部に、次々と脳裏に蘇る。

  ここは、崩壊の空気をまとった『Distopia』なのか、それとも…。メンバーたちが激しく身体を折り畳み、絶叫した声を響かせる。カオスな音の中から響く4人の高陽した歌声。メンバーらの動きに合わせ、同じようにヘドバンに興じる観客たち。鼓膜の震えに反射するように響く4人の歌声は、崩壊の世界に響き渡る救いの合唱のようにも聴こえていた。

 破壊的な音の調べに乗せ、4人の黒い女神たちは軽やかに舞い踊りながら、哀切さを帯びた歌声を響かせていた。今宵の『セラフィムの夜』は、胸をねっとりと揺らし、高陽と恍惚へ導く子守歌のようにも聴こえていた。祈りを捧げるように歌う声に、気持ちが溺れてゆく。重なりあう4人の歌声が恍惚を覚えるのを合図に、楽曲は転調を繰り返しながら、高ぶった気持ちを黒い闇の奥へ奥へと引き込んでいった。

 僅かに残った理性を瞬時に断ち切るように、Aphroditeは耽美メロウな歌声と、狂気に満ちたヒステリックな音が交錯する『My Sweet Bach』を届けてきた。とても雄々しい歌声だ。戦慄した旋律を塗り込むように突き進む演奏と、その上で歌う4人の声が絡み合う。漆黒の宴の中、気持ちを高陽と熱情へ導く愛しき声として4人の歌が心に染み渡っていた。


 この日を持って、現メンバーがAphroditeを卒業する。でも,そこには哀しみの涙はない。むしろ、4人とも気持ちが高陽していたせいか、笑みを浮かべながら言葉を述べていた。


 後半の宴は、『nocturne』からスタート。先まで、徹底して黒い感情を塗り重ねていたAphroditeだったが、『nocturne』では漆黒の轟音はそのままに、そこへ僅かながら白き輝きも差し込ませていた。今宵の宴は、さらに終末の黒い色に染まってゆくのか。それとも、黒い下地の中へ感情を奮わせる異なる差し色を加えてゆくのか…。

 救いの音を響かせるように、哀愁を抱いた旋律も織りまぜ、4人は朗々と『moirai』を歌っていた。黒いスワンが華麗に泳ぐような様でその身と心をゆったりと揺らしながら、4人は揺らめく気持ちへ導かれるように、フロア中へ歌声を染み渡らせていった。

  この場にAphroditeが描きだしたのは、破壊の先にある再生の楽園か…。それとも、エデンの園にも似た楽園を手にしたくて上げた希望を求める声なのか…。4人は、言葉のひと言ひと言を確かめ、噛みしめるように『Utopia』を歌っていた。何かを求めるように歌うその姿は、とても美しく可憐に見えていた。漆黒の轟音の中で歌う4人の姿に儚い美しさを覚えていた。

  ここから新たな創世の歴史を共に描こうと、Aphroditeは笑みを浮かべ『パルテノンを眺めて』を歌いだす。彼女たち自身が救いの女神に転化。新たな物語を描くこれからのAphroditeに、今の自分たちの意思を託そうと、声を上げ、思いを響かせてゆく。

 4人は、激烈で暗黒耽美な音色に乗せ、艶やかな姿で舞い踊りながら『パリの灯りは遠く』を歌っていた。高鳴る胸の鼓動へシンクロするように、時にその場で跳ねながら、弾む気持ちへ寄り添うよう、希望を胸にダンスに興じていた。4人が身を寄せ合い、声を一つに歌う姿も愛らしい。

 本編最後にAphroditeは、『私を天国へ連れてって』を通してフロアの人たちの理性を壊し、この場を拳揺れる熱狂の空間に染め上げていった。4人が華麗に手をはかめかせ歌うたびに、一緒に恍惚の園へ舞い上がりたい気持ちに染まりだす。これが最後とは思えない、いつものように熱情した姿のもと、歌声の翼を羽ばたかせ、4人は恍惚の園へと舞い上がっていった。


 アンコール前に、メンバーたちが今の気持ちを述べていた。相応の歴史を積み重ねてきた中、5年以上Aphroditeに在籍している倉澤雪乃が、「この景色は人生の宝物」「卒業したら歌えなくなる曲を大事に大事に歌いたい」と語っていた言葉が、胸に響いた。

  アンコールで4人は、ふたたび『Ēlysion』を熱唱。まさに、今の4人の気持ちを描き現した楽曲だ。彼女たちは哀しみを振り切るように、フロア中の人たちを熱く煽り立てる。後悔のないようにと言っても、それは難しいこと。それでも今、あらん限りの感情をぶつけ、ここに熱狂した景色を作りあげることは十分できる。4人とも哀しみに暮れるのではなく、まだ気持ちが前を向いている。だからこそ彼女たちは、絶叫にも似た歌声を通し、心の嘆きを熱情した力に変えていた。4人の煽りに合わせ、フロア中から突き上がり続ける拳。

  重厚な狂騒音を響かせ、楽曲は『Re-Call』へ。4人は舞台の上で華麗に身体や手を舞い踊らせ、狂乱したこの宴を止めまいと、高らかな声を重ね合わせ、観客たちの視線をしっかり舞台の上に集めてゆく。そして…。

 最後の最後に、現体制のAphroditeは『月は無慈悲な夜の女王』を突きつけ、フロア中の人たちの心を解き放ち、ともにクラップを交わせば、一緒に高く拳を突き動かす様を描くなど、最後まで互いに荒ぶる気持ちを分かちあい、重ねあっていた。その姿こそAphroditeらしいじゃないか。しんみりすることなく、終焉のときまで、ずっと興奮と狂乱の場を作りながら、Aphroditeの一つの歴史は幕を閉じていった。

 「みんなが見届けてくれて、もう悔いはないです」。倉澤雪乃の声が、この日のライブの全て…。「みんなに救われた」と語った𝑀𝑎𝑟𝑖𝑎の声もまた、この日のライブの全てだった。


TEXT:長澤智典

 

<インフォメーション>

Elysium(エリュシオン) MV Aphrodite
https://www.youtube.com/watch?v=08furtLp38U

SNS
https://twitter.com/aphrodite_idol


セットリスト
〜SE〜
『EDEN』
『Ēlysion』
『lament』
『ユダの接吻』
『creator』
『GENESIS』
『Distopia』
『セラフィムの夜』
『My Sweet Bach』
〜MC〜
『nocturne』
『moirai』
『Utopia』
『パルテノンを眺めて』
『パリの灯りは遠く』
『私を天国へ連れてって』
-ENCORE-
『Ēlysion』
『Re-Call』
『月は無慈悲な夜の女王』

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