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2022.05.12
yucat

2年越しのワンマンライブ、yucatの歌が描き出す、ダークな世界観と内に秘める優しさ。唯一無二のストーリーで生きる幸せを語る。

2022年5月7日、サンリオピューロランドのフェアリーランドシアターをステージに、独自の世界観を描きだすストーリー仕立てのワンマンライブがおこなわれた。yucatのワンマンライブ「PARALLEL LIVE VOL.17 in サンリオピューロランド〜Dr.Codeノ策略〜」だ。もともと2年半前には開催が決まっていたが、コロナウイルスの流行で延期が余儀なくされていた。yucat自身はもちろん、ファンも心待ちにしていたワンマンライブ。長い延期期間にもかかわらず、会場は満員御礼。yucatとファンの心の繋がりも見えたライブステージの様子をレポート。


ステージが一度暗転すると、「暴走マシーンにご乗車くださりありがとうございます」とどこからともなくアナウンスが流れる。舞台はyucatがやってきたパラレルワールド。太陽の光が燦々と降り注ぐようにステージが照らされると、2人の妖精が現れた。水の精アポロンと火の精メテウスだ。シルクハットを被ったヤシロ・ムジカも現れる。
yucatは黒を基調にしたドレスを来て、ステージに登場した。最初の一曲は「暴走マシーン」。真っ赤なライトに照らし出されたステージの上で、伸びやかな歌声を惜しみなく披露する。会場ではyucatの歌を応援するようにサイリウムの光が振られていた。

「目的地を設定いたしました。案内いたします」というアナウンスとともに、次の世界へと移動する。新しい世界に不安と期待を持ってyucatが歌うのは「第3ノ道」。yucatが左手で振り乱すフラッグを見て、会場のファンもサイリウムからフラッグへと持ち替えていた。
高音の美しい響きのなかにも、旅立ちの勇ましさを表す行進曲のような強さを感じる歌。しかしその歌詞からは生きることへの執着と苦しみが描き出されているように感じられた。

音楽が止むと、Dr.Codeが現れる。煙を吐く機械の前で「何かが足りない」「不都合なことはなくして仕舞えばいい」と何かを思い悩む姿を見せた。

Dr.Codeがステージを去ると、yucatとキティがステージに登場。陽気な日差しのなかで「レプリカパプリカ」を歌う。yucatに合わせてキティも手拍子やダンスを披露。可愛らしい猫のポーズの振り付けをキティも楽しそうに踊る。ファンも振りコピして盛り上がっていた。

キティが去ると、CPがどこからともなくyucatに声をかける。CPはyucatが寂しくないように、現実界を放浪しながら、友達を見つけては、こっちの世界に連れて来る、yucatの大切なパートナーだ。CPが「僕がいることも忘れないで欲しいな」と拗ねたように呟くと、yucatが「忘れてないよ」と言って「踊り子ノ晩餐会」を歌った。

歌が終わると突然電撃が走り、yucatたちが地面に倒れてしまう。原因は近くにあった機械の暴走にあるようだ。動けないでいるyucatたちの目の前に、Dr.Codeが現れて、暴走する機械を止めてくれる。
機械の暴走が止み、動けるようになったyucatたちはDr.Codeの「俺は完璧な人間を作りたいだけなのに!」と叫ぶようすに戸惑いながら、彼に寄り添い、「なにがあったの」と問いかけた。Dr.Codeは人々のやる気を削いでしまうという「YNG」のウイルスが蔓延した世界を憂いていること、そのウイルスで苦しむ人々を救いたいと思っていることを打ち明けた。しかし実験はうまくいかず、人々はいまだ苦しんでいる。その状況を見るのが苦しいのかもしれない。Dr.Codeは項垂れながらその場から去っていく。

Dr.Codeが去ったステージでyucatが歌うのは「Dr.Code」。ステージに跪きながら「助けてDr. 気付いてDr.」と叫ぶ。どうすればよいのか、何をすべきかわからない、不安や苦しみに囚われたものの悲痛な叫びが観客の心にも棘のように突き刺さる。歌のなかで助けを求めた登場人物は、Dr.に支配されて自由を失ってしまう。「独りじゃないとそう言って欲しかった Dr.」と残すyucat。

Dr.Codeは機械と向き合い、14万4000回目の実験をおこなっていた。「もうダメだ」と言い放ったDr.Codeが廃棄にとりかかろうとすると、その機械から拒絶される。「馬鹿な、意思は宿していないはずなのに!」とDr.Codeが叫び、解決策がわからず、その場を立ち去ってしまう。

Dr.Codeがいなくなったステージに、輝く夜空が現れると、yucatが登場し、「もう誰も壊したくない」と歌う。「steamroid」の歌詞には「僕は誰と戦ってるの?」「この手じゃ抱えきれない」「この世の悲しみ」「僕はここでしか生きていられない」と苦しみが綴られている。命令されたことだって、世界を救う手立てだと信じていられれば苦しくはなかった。しかし、実際は誰かを傷つけているのかもしれない。そう疑念が生まれた途端、どうしたらよいのかわからなくなってしまう。けれど自分にはこの居場所から離れる方法も、勇気もあるようには思えない。そうして自分自身が何者なのかわからなくなる現象は、誰にしも起こりうることのように思える。現実世界で苦しむ人の声を代弁するように、yucatは声を枯らしながら精一杯に訴えかけていた。

静かにステージから姿を消したyucatを追いかけるように、ヤシロ・ムジカが現れる。彼女のソロステージだ。ステージ上で紫のスポットライトを浴びたヤシロ・ムジカの演奏は激しさをともなっているのに、そのなかでどこか懐かしい音色が響いているように感じられる。

Dr.Codeがyucatの素朴な疑問に答えて、闇磁力の説明をしている。現実世界では人が騙したり隠し合ったりして生活している。その心のエネルギーを原料に動くのだと説明してみせた。
「あらゆる感情をおさえ、理性を保ちながら生活をする。それが人間だ」とyucatに話して聞かせるDr.Code。彼の言葉を聞いてyucatが歌うのは「七つノ大罪工場」。白と黒ではっきりできないこの世の中の複雑な構造とそれを構成する人の感情、嘘、ごまかし。自分にも備わっている闇の部分に目を向けるyucat。人の汚い部分を見るのは苦しい。それでも真っ直ぐに人の悪いところすら見つめている歌詞から、yucatの純真さが伝わってくる。

「なぜだ、なぜ命を大事にしない。なぜ自ら破滅の道を歩んでしまうのだ!」と叫ぶDr.Code。
「そうか、複雑だからいけないのだ。もう捨てたり隠したりしなくてすむ。一つしかなければ大切にしてくれる。もう迷ったりしない!」と訴えるDr.Codeにyucatが不安そうな顔で問いかける。「Dr.Code、何をするつもり?」。「心臓部分に七つの大罪を一つずつ詰め込むのだ。そうすれば完璧な人間ができる!」と確信を言葉にして立ち去るDr.Code。

続けて歌うのは「機狂心兵」。yucatは「生にしがみつけ、この身尽きるまで」「それが宿命なのか」と荒ぶるサウンドで焦ったような息を切らせて歌う。「もう十分だ」と責苦を浴びせる言葉たちに反論する。「機狂心兵」とは七つノ大罪工場で作られている戦闘用ロボット兵。偏った感情のせいでPARALLEL WORLDにいる人々を攻撃しては何かを守ろうとしている。現在、14万4千の機体が確認されている。弱点は人型BOXと呼ばれている赤い心臓部分を攻撃されること。

Dr.Codeは「やっと見つけた」と高らかに笑う。「これは救いそのものだ。yucat、なぜわからないのだ、これは希望そのものだ。現実はつらい」そう自分にも言い聞かせるようにDr.Codeは言葉を続ける。yucatは「善悪の区別がつかなくなってる」と彼のようすを見て苦しげに眉を顰めた。またCPの声が聞こえてくる。「偏った感情を詰め込みすぎたせいでその感情に支配されているんだ。人型BOXと言われるコアの部分、つまり赤い心臓部分に『YNG』を詰め込むのはどうだろう?」と暴走する機械を止める手段を提案する。
yucatは「それじゃ現実世界と一緒だよ。いらないものを削除すればいいなんて。私が求めているのは不器用でも不完全でもいい。大好きな仲間たちと一緒に『これおいしいね』『あったかいね』って言い合える世界がほしいだけ。思い出してDr.Code。あなたは助けたかっっただけなんだよね!?」と、そう叫ぶ。すると、「答えがわかった君にAGPを与えよう」と全知全能の木が彼女に話しかけた。

「この国は今病気だから優しさだけじゃ救えなくて」と歌い出すyucatの「サクラサイエンス」。寂しさが募る音楽の中でこれまでの思い出を振り返った。「奇跡は起こると信じたんだ」「消えないで私の光」と訴えるyucatの声は、辛く苦しかった過去を乗り越えて、未来を信じ、前を向く、本当の心の強さを見せてくれる。

「人型BOXはただの入れ物。ウイルスに勝つ、一つの方法は、頑張りすぎず、肩の力を抜き、自分を受け入れること。愛無くして人は生きられないのだから」と全知全能の木が語りかける。yucatはそれを受けて「全知全能ノ樹」を歌う。

yucatは「Dr.Code。あなたは優しすぎて苦悩しすぎて、道をはずれてしまっただけ。大丈夫。何度でもやり直せる。あなたはこの世界の名医なんだから」と誰に話しかけるでもなく、つぶやいた。

「そうだ。過去をなかったことにはできないが、この先もずっと先まで学ぶことも知ることもできる。この先のたくさんの出会いがあり、それらに一喜一憂しながら前を向き、進んでいくんだ。手放してはいけない。それが例え苦しいものだとしても、それが君の力になるだろう。yucat、今日もまた大きなことを知った1日に会ったね。このことをしっかりと音楽に昇華するのだよ」と全知全能の樹が語りかける。
yucatは力強く頷いて、「はい、また会う日までDr.Code」と微笑みながらささやいた。

「ここからスタートだ。たまには遠回りしよう」と歌うyucatの姿は明るく、軽い足取りで踊る。会場も一つになってyucatの奏でるリズムに合わせて体を揺らし、この先の明るい未来を想像し、笑顔で彼女を見つめていた。楽しそうにスキップを踏み、満面の笑みで会場を走り回るyucatの姿は、これからの彼女の世界に明るい光が差し込み、その光で満ちることを指し示しているようだ。「予測できないような先の未来を」「まだ夢の途中だ」と歌うyucatの声は明るい。

「何が善で、何が悪なのか、今もまだわからないけれど、Dr.Codeもミスターパーフェクトペインもローレライも決して悪ではなかった。まだまだ旅をしていろんなことを知っていかなくっちゃ。それにしてもここはどこだろう。まさか?太古の世界?」そうyucatが呟くと、陽気な音楽が流れ出す。キティがふたたび登場して、yucatとともに踊り出す。歌うのは「ダイナソーDANCE」。太古の命の輝きに思いを馳せる歌詞は、子どもの純粋な想像力を表現しているようだ。明るくポップなダンスにエネルギッシュなサウンド。これまでのダークな世界観とはがらりと変わった新しいyucatの世界の一部を垣間見れた。

歌い踊ったyucatたちがステージをあとにする。どこからか、「Dr.Codeの出会いから本当に大切なものはなんなのか、その答えの欠けらをみつけた。不器用でも不完全でもいい。ただ大切な仲間との時間を過ごすため。おやすみ世界」と声が聞こえると、ささやかな光をたずさえた夜空に会場は包まれた。

Dr.Codeのストーリーはこれにて閉幕。会場に駆けつけたファンからはいつまでもやまない拍手が送られた。ファンの声に応えるようにyucatがもう一度ステージに登壇し、このライブへの想いを語った。

「2年越しのサンリオピューロランドでのワンマンライブ。この2年間、全然みんなに会えなくて、何回も何回もライブ中に、感きわまりそうになって、途中でこけちゃったりもしたんだけど(笑)こうして無事にライブを開催することができて本当に幸せです。ありがとうございました。
やっぱりライブは生だよね。生に限るよ。配信ライブもたくさん面白いこといっぱいやってきて、配信ならではの良さがあるなと思うこともあるけれど、こうやって目と目が合って歌えるのがやっぱり最高です。こうしてライブをしていると、『生きてるんだな』って思えます。今日はとても幸せな気持ちを皆さんからいただきました。遠征できていたり、ゴールデンウィークの真っ只中であったりと、みなさんいろんな不安を抱えながらもこうして会いにきてくださったことに感謝しています。
このストーリーは2年半前に台本をかいていました。コロナになる前にウイルスの話をかいていたんです。コロナになった時はビクッとしてしまいましたが、この時代にぴったりな台本だったのではないかと思っています。」

最後に歌うのは「Fairy Story 10th Anniversary ver.」。心が一つになった観客のクラップがyucatの心を奮い立たせるように響いていたに違いない。拳を高く振り上げるファンの表情は満面の笑みだった。この時間が終わることの悲しさよりも、これからの未来を思う気持ちで心が満ち足りているのだろう。最後にyucatが「これからも皆さんと一緒にたくさん笑顔になれる瞬間作っていくからね!みんなこれからもよろしくね!」と叫ぶと、ファンは大きな拍手で「もちろん」と答えていた。


TEXT:高橋未瑠来
PHOTO:リリィ(ririco:ramu)


LIVE


<セットリスト>
01.暴走マシーン
02.第3ノ道
03.レプリカパプリカ
04.踊り子ノ晩餐会
05.Dr.Code
06.steamroid
07.七つノ大罪工場
08.機狂心兵
09.サクラサイエンス
10.全知全能ノ樹
11.脳内トラベル
12.ダイナソーDANCE
アンコール. Fairy Story 10th Anniversary ver.


<ライブ情報>
「yucat 10周年記念ワンマンライブ」
日時:7月17日
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
YASHIRO、伊東雅乃、植田理沙がそれぞれの役柄で登場。檜山修之も声のみの出演を予定している。


<yucatプロフィール>
2011年10月31日yucat誕生。
スチームパンク・ゴシックをテーマにダークファンタジーな世界(PARALLEL WORLD)を創造している。工場クルージングライブや劇団を借り切ってのストーリー仕立てライブ等、唯一無二のライブを展開中。


<出演者>
yucat
檜山修之
YASHIRO
伊東雅乃
植田理沙
ハローキティ

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