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2025.08.14
間々田優

間々田優 インタビュー

CDを手にして歌詞カードを見たときに、気づく人ならすぐに縦読みの言葉に気づける。そのときに「こんな怖い言葉が書いてあったなんて」と驚いてもらいたくて、あえて意識して縦読みのヶ所を入れました。

 「突き刺し系シンガー」として活動中、間々田優が9月10日に5年ぶりになるアルバム『タイポグリセミア』をリリースする。今回は、最新アルバムの魅力を本人にがっつりと伺った。

 

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そもそも芸術って善悪とは割り切れない表現の世界。だからこそわたしは日常では言えないことを書くし、人が隠したがることをあえて掘り下げててゆく姿勢でいます。


──最新アルバム『タイポグリセミア』を耳にしたときの率直な感想を述べさせていただきますけど。優さん、エロいっす!

「あっ、嬉しいです。自分が音楽を始めた頃は自分の声質を活かそうと、ギターの弾き語りで無骨に歌っていたから、あえて中性っぽいといいますか、女性性をあまり出さないで表現していくことが多かったんですけど。自分が女性アーティストとしてやっていくうえで、性差や性別、性欲も表現していくうえで欠かせないなと思うようになり、今回のアルバムを作るときには変な枠組みを取っ払い、一人の女性としてあけすけに表現していきました」

──男女がロック(69)に交わる行為を"マガタマ"と表現するなど、言葉選びのセンスがほんと冴えています。

「わたし自身が、一つの物事をわかりやすい簡単な言葉で表現するよりも、いろんな角度から表現したいなと思ってしまう性格。それこそ、アルバムのタイトルにもなったタイポグリセミアという言葉自体が、言葉の性質の妙味を現している言葉。今回はとくに、歌詞の中にいろんな遊び心を入れることは意識していました」

──言葉遊びは、以前から表現の中へ積極的に入れてきたことなのでしょうか。

「そこは、次第に変わっていったことでした。今も好きですけど、昔はもっと詩的にというか、手紙を書くような口語的な歌詞が多かったけど。メロディーやサウンドに乗せたときの響きの楽しさや語感の良さも求めたいと思うようになり、次第に表現のアプローチも変わっていきました」

──語感の響きを活かすためもあるのか、あえて表現したい事柄をオブラートに包んだり、発音のニュアンスを変えたりなどの言葉遊びもけっこうやっていません?

「歌詞を書くうえでのこだわりは強いです。先に曲と歌詞を書いたうえで、「語尾がこの文字で終わるから、それを受けた表現にしよう」「そこは韻を踏もう」「ここの文字数が8つだから、この表現で」など、改めて細かく整理しながら歌詞を膨らませていくことは多いです。今は表現していく上で、忖度やコンプライアンスなどを求められることがあります。でも、音楽はまだまだ自由に表現できる場でありたいし、そもそも芸術って善悪では割り切れない表現の世界。だからこそわたしは、日常では言えないことを書くし、人が隠したがることを、あえて掘り下げててゆく姿勢を持っています」


あの曲とこの曲に繋がりを覚えるなど、間々田優の楽曲に長く親しんできた人ほど深く楽しめる要素は、アルバム『タイポグリセミア』の中にいっぱい散りばめてあります。


──優さんの歌声は、とても強い存在感を放っています。楽曲を作るうえでも、自分の歌声をどう活かすかを考えて曲作りもしているのでしょうか。

「今回のアルバムではとくに、いろんな声色を使って作品を表現したいと思いました。それこそ歌詞の一節や、単語の一つを取っても、さまざまなアプローチをしたく、結果、曲調も幅広くなって、カラフルな仕上がりになったと思います」

──『ごめんねピータン』のような、悲しさを力強く吹き飛ばした曲もあれば、バラードの『あいの国』のように情念めいた曲調まで、いろいろと並べていますよね。

「わたしの作品を聴いたり、ライブを見てくださっている、大変有名な女性漫画家さんがいらっしゃいます。ちょうどコロナ禍の時期のお話になりますけど。「コロナ禍になって、連載もどうなるか先が見えない。そんな中で離れていった人たちもいれば、いろんな人たちに裏切られてきた。それでもわたしは描き続けたかったし、描き続けている。そのときに持っていた強い気持ちを歌にしてほしい」「自分の国を守る。自分の世界を、そして自分の国を作っていく強い意志や情念を持った楽曲を作ってほしい」と、わたしに曲の制作を託してくださいました。そこへ、自分の生き方を重ねながら作りあげたのが『あいの国』でした。曲調の面でも、大河ドラマや映画のような壮大さを持てばと、アレンジャーさんと密に打ち合わせをして、壮大なアレンジをしていただきました。結果、『あいの国』はわたし自身も挑戦した楽曲になりました。 
  『ごめんねピータン』では、成就しなかった恋の経験を歌にしています。以前の自分は、情けない曲って書けなかったというか、「自分は格好いい女性でいたい」「強い女性でありたい」と気取ってばかりいました。その意識が変わったからこそ書けた楽曲の一つです」

──『甘いのがお好き』も恋愛系の楽曲ですけど、ラップの部分では、現実をシビアな視点でライムしていません?

「『甘いのがお好き』は、「あなたと一緒に甘い未来を描きながら生きていきたい」と素直に思いながら書いた歌です。でもラップの部分には、自分の日常のことを書きました。ここで言っていることは、みなさんの日常にもあること。それこそ「もう会社に行きたくない」とか「明日、生きていけるのか」「自分は、これからどうなっていくのか」、そういう不安をラップに乗せて吐露しつつ、それでも「あなたと甘い未来を描いていきたい」という思いを、ここには書き記しています」

──『住所不定年齢不詳』では、縦読みの歌詞も取り入れていますよね。縦読みの言葉一つ一つへ、どう横読みの言葉を並べてゆくかの作業は、大変じゃなかったですか。

「すごく悩みました。縦読み部分の歌詞って、先に縦読みの言葉ありきで横の文節を考えていくじゃないですか。しかも横に書いた文字が、縦に記した言葉の意味のサブストーリーにもなっていく。『住所不定年齢不詳』に書いたのは、情けないし、ちょっと惨めで、しみったれた男の生きかた。でも、女性としてどこか憧れてしまう生きざまとしても書いています。その男に関わった女性の本音として出てきた言葉を、縦読みには書いています。憧れもするんだけど、やっぱし心の底では恨んでいるからこその本音を、縦読みの部分には書いてあります。きっとライブやサブスクで聴いただけだと、サブストーリーの部分しか伝わらないし、どこが縦読みなのかわからないと思います。でも、CDを手にして、歌詞カードを見たときに、気づく人ならすぐに縦読みの言葉に気づける。そのときに「こんな怖い言葉が書いてあったなんて」と驚いてもらいたくて、あえて意識して縦読みのヶ所を2つ入れました」

──言葉の流れを受けて、韻を踏むこともそう。歌詞の細かいところへ、いろんなこだわりを書き記していません?

「いろいろと、こだわっています。わたしは17年間音楽活動を続けていて、これまでにもたくさんの作品をリリースしてきました。たとえば『エロエロエッサイム』の歌詞の一節へ、以前に書いた楽曲のフレーズが出てきたり。あの曲とこの曲に繋がりを覚えるなど、間々田優の楽曲に長く親しんできた人ほど深く楽しめる要素も、アルバム『タイポグリセミア』の中にいっぱい散りばめてあります」

──強烈だなと思ったのが、『帯状疱疹オン・マイ・マン』。この曲、女性のデリケートゾーンへ帯状疱疹が出来てしまった歌ですよね。

「そういう病気に罹ってしまったことがあって。あのときは誰にも相談していなかったし、内緒にもしていました。誰にも言ってないからこそ、曲を通して白状しようと思って、思いきりパンクの楽曲に乗せて告白し、あのときの経験を笑ってもらおうと歌にしました。以前の自分だったら、こういう経験があっても人に言わないのはもろちん。パンクロックに乗せて笑い飛ばそうという発想など思いもしなかったと思います。それが今では、秘密にしていたことまで曲にして思いきり笑い飛ばしていますからね」

──そうなった理由も気になります。

「以前は、自分のネガティブな面をシニカルに笑い飛ばしたり、隠していた恥ずかしい部分を歌に乗せて告白は出来ませんでした。前アルバム『平成後悔』を出した5年前はまだ30代でしたし、コロナ禍前の時期。そこからコロナ禍を経て、自分も40代になり、いい意味で大人になって、いろんな物事の分別もつく歳にもなっていますけど。その期間の中、音楽を続けていく覚悟や喜びを改めて感じ続けてきたからこそ、たとえ曲では格好つけたとしても、歌詞や歌い方では、素顔で素直な自分を出していこうとなれたのかも知れないですね。むしろ、そういう自分になれたことが好きだし、誇りにも思っています」


多少の曖昧さやちぐはぐなやりとりだとしても、上手く補正がかかって、普通に関係性を成り立たせていけるじゃないですか。そういう「人のおかしみを持った関係性」も表現していることから、このタイトルをアルバムに名付けました。


──『タイポグリセミア』という楽曲名をそのままアルバムのタイトルに名付けたのは、この言葉が収録した曲たちと深くリンクしているからですよね。

「そうです。「タイポグリセミア」という言葉の意味ですが、たとえば「こんにちは」を「こんちには」と書いても、見た瞬間に「こんにちは」と認識してしまう。それどころか、言葉の順番が違っていたのに気づかないことだってあるじゃないですか。そういう面白い現象のことを総称した言葉。そこに「おかしみ」や「人の不思議さ」があるといいますか、意外と曖昧でも通じてしまうこと。それは人と人の関係性にも言えることで、多少の曖昧さや、ちぐはぐなやりとりだとしても、上手く補正がかかって、普通に関係性を成り立たせていける。そういう「人のおかしみを持った関係性」もいろんな曲を通して表現していることから、このタイトルをアルバムに付けました」

──優さん自身も、あまり細かいことは気にしない性格?

「それは、あるかも知れないです。もともと、O型で大雑把な性格というのもありますけど。昔は、そういう自分をあまり曝け出せなかったというか。それこそ名前の優のように、優れてなきゃいけないというか、自分は完璧主義者であって、何事にも正確で、誰よりも一番であるべきという気持ちが自分の中にありました。だけど生きてくって、そればっかりではないじゃないですか。そういう気持ちが次第に曲や、自分の生きかたにも滲み出てくれば、今の、曖昧さも許せている自分に繋がってきたのかも知れません。じつはアルバムタイトルの曲である『タイポグリセミア』は、アルバム収録の曲の中で、唯一詞曲を提供していただき、シンガーに徹して表現をした楽曲です」

──その経緯も、良ければ教えてください。

「楽曲は、キンプリやベッドインなどの楽曲を制作している、黒崎ジョンさんに提供をしていただきました。じつはアルバムのリリースに当たって、制作費をクラウドファンディングで集めました。当初は11曲収録のアルバムを予定していましたが、予想を大きく上回る支援をいただいたことから、その支援を何か形でお返ししたいと思ったときに出てきたのが、新たに曲を作って入れようということでした。しかもあえて、わたしのキャリアでも初になる、作詞作曲を自分以外の人にお願いをし、わたしはシンガーに徹して表現しようと決め、それで制作をお願いしたわけです」

──『タイポグリセミア』の歌い方が”べらんめぇ口調"なところも格好いいですよね。

「仮歌の入ったデモ音源が届いたとき、べらんめぇ口調で歌っている部分がけっこうあったので、わたしもその歌い方を活かそうと、振り切った声色を使って歌いました。そうしたら、レコーディングでディレクションもしてくださったジョンさんに「その歌い方、歌詞にめちゃめちくゃ思いがのっかってるねぇ」と褒めていただけました。その言葉、めちゃめちゃ嬉しかったです」

──しかも、提供曲を歌うだけじゃなく、タイポグリセミアマンというプロレスラーにも発展してしまいましたからね。

「そうなんですよ(笑)。タイポグリセミアマンの誕生も、クラウドファンディングでのご支援をいただいた中、みなさんとも相談や合意のうえ、「タイポグリセミアマンをプロレスデビューさせよう」ということで生まれました」

──プロレスラーまでやってしまうシンガーっすごくないですか?!

「もととも筋肉質ではありますけど。みなさんの中にも、タイポグリセミアマン=間々田優だと信じ込んでいらっしゃる方々がいますが、そこはマスクマンレスラーですからね、中身がけっしてわたしとは限らない…」

──「アタックテダケロック(当たって砕けろ)」の歌詞じゃないけど、本当に当たって砕けたら洒落にならないですもんね。

「プロレスの試合で骨折をして、ギターを弾けないとなったら、それは大変なことになっちゃいますからね。つまり、プロレスラーとしての活動もタイポグリセミアしてるってことかもですよ(笑)」


今までは嘘をついたり、格好をつけていた部分さえ赤裸々に曝け出した、まさに、一番等身大の自分を出せたアルバムになりました。


──アルバム『タイポグリセミア』に収録した曲たちを、自分の経験と重ねながら聴いてゆく人たちも多そうな気がします。

「『住所不定年齢不詳』には、思いきり情けない、ダメ人間の極端な生きかたを書きましたけど。わたしの中にだってダメ人間なところがあれは、重なる部分もあります。歌詞は女性の視点で書いてはいますけど、そこは男女問わず「自分もこういう気持ちや経験があったよ」「こういう生き方をしてきたよ」と重なる面もあるだろうし。そうやって自分の経験や気持ちと重ねて聴いていただけたら嬉しいです」

──完成したアルバム『タイポグリセミア』を、優さん自身はどのように受け止めています?

「今までは嘘をついたり、格好をつけていた部分さえ、本作では赤裸々に曝け出した、まさに、過去一番等身大の自分を出せたアルバムになりました。きっとわたし自身が、依怙地な面や格好つけな自分の性格的な部分を投げ飛ばしたくていたんでしょうね。それこそ30代頃までの自分は、「格好つけている自分を、どうにか打ち破る表現が出来ないか」と心の中で思いながらも、それを打ち破ることが出来ずにいました。でもコロナ禍を経て、音楽に何の価値もないんじゃないか?というような経験をしました。それは、わたしだけじゃなく、いろんな方も味わったことかも知れません。それでもわたしは音楽を止めたくはなかった。たとえ一人でもいい、間々田優の音楽を求めてくれる人がいるなら、その人のために歌いたい。それは、けっして格好いい生きかたじゃないと思います。それでも音楽を続けたいし、歌い続けたいと思ったこと、40代という年齢を迎えたことが、自分の殻を破れたことへ繋がったなと感じています」

──今後のライブ活動の予定も教えてください。

「今、「秘密基地」という配信スタジオから毎月配信でライブをお届けしています。そして来年にはなりますが、アルバム『タイポグリセミア』を手にした全国ツアーも今、組み立てているので、そこは発表を待っていてください」

──楽しみにしています。その前に、この"人間臭さ"を満載したこのアルバムを、少しでも多くの人に聴いてもらわなきゃですよね。

「もちろんです。ちょっと背伸びした自分を描いた『ごめんねピータン』や、働きながらみずからの力で生きている人に響く『あいの国』など、日々頑張って生きている人たちに響く歌たちが、ここにはたくさん詰め込まれていますから。ただ、わたしが罹った『帯状疱疹オン・マイ・マン』のようにはならないでくださいね(笑)」

 

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TEXT:長澤智典
(協力:J ROCK’N’ROLL)

 

タイポグリセミア/間々田優
品番:TH-230 価格:¥3300(税込)
<収録曲>
01. ごめんねピータン
02. 甘いのがお好き
03. エロエロエッサイム
04. あいの国
05. タイポグリセミア
06. セカンドダンス
07. 住所不定年齢不詳
08. 白黒ラブソング
09. 帯状疱疹オン・マイ・マン
10. ミゼラブル
11. さよならファンタジア
12. ナルシスト